こんにちは。町民ライターのこまつはるなです。
「地域おこし協力隊」シリーズの5回目となる今回は、飯綱町三本松農産物加工施設の松本あゆみさんにお話をうかがいました。
“飯綱町三本松農産物加工施設”というのが松本さんが担当されている施設なんですね。
なかなか長くて漢字がいっぱいの立派な名前ですが、いったい何の施設なんですか?
「フルーツ加工の工場です。うーん、やっぱり長いし硬いですよね。ロゴやホームページには、“いいづなフルーツファクトリー”と表記しています」
こちらの施設は飯綱町初のフルーツ加工施設で、なんと今年(2021年)1月にオープンしたばかり。
昔の農産物直売所「むーちゃん」の真横に建てられた施設、といえば地元の方はピンとくるのではないでしょうか。
松本さんは、いいづなフルーツファクトリーの立ち上げから関わり、現在は運営を任されています。そもそも、どうしてこの施設はできたのでしょうか。
「実は、この施設ができたということはすごいことなんです。
日本ではここ最近、地域内で生産(1次産業)、加工(2次産業)、販売(3次産業)の融合を行う6次産業化への取り組みが盛んになっています。しかし飯綱町では、フルーツ加工に関して「加工」部分を担う施設がありませんでした。
つまりりんごをジュースに加工しようと思ったら、飯綱町で採れたりんごをわざわざ町外に持って行って加工し、また持って帰ってきて飯綱町で売る、っていう面倒な作業だったんです。
それがこの施設ができたことで、一連の工程を飯綱町内で全て行うことができるようになりました」
飯綱町のりんご農家さん待望の施設だったんですね。
農家さんのジュース加工の受け入れが8月から始まったそうですが、評判はどうでしょうか。
「ありがたいことに、多くのりんご農家さんから依頼がありました。こちらの施設の特徴は、1ロット(コンテナ)から受け付けていることなんです。飯綱町内の農家さんは、多品種を栽培していて、一品種あたりの生産量がそこまで多くなかったりするんです。なので、少量のりんごでも受け付けられるようにしています」
地元の農家さんの利用しやすさを考えられた加工所なのは嬉しいですね。
そしてこの日も、飯綱のりんごをジュースにしていました。ちょっぴりのぞかせてもらいましょう。
器械にポンポンと手際よく入れたりんごがどんどんジュースになっていきます。おもしろいです。
ここではジュース以外にも、ジャムやドライフルーツの製造など、さまざまな加工をしています。
「地元レストランや喫茶店などの商品開発の試作も行なっているんですよ。加工食品は、ライセンスを取らないと製造できないので、それぞれの飲食店では商品化するのが難しいというのが課題でした。それが、こちらの施設を利用してもらうことで可能になりました。地域の飲食ビジネスのサポートができるのは本当にうれしいですね。今後、町内で新しい加工品がたくさん出てくるんじゃないかと思います」
わぁ、それは楽しみですね。それぞれのお店のオリジナル商品がたくさん生まれれば、そのお店はより魅力的になるし、飯綱町を訪れた人たちの満足度も高まりますね。
「いいづなフルーツファクトリーのオリジナル商品です。余ったフルーツなどを使っています。受注が入っていない時間で作っています。りんごのしぼりカスを使ったりんごファイバークッキーは、食品ロスの削減を目指して開発しました」
持続可能な社会を作る取り組みも、積極的に行っているんですね。
そんな地域にも地球にも優しい、いいづなフルーツファクトリーを任されている松本さんですが、松本さん自身は、なぜ飯綱町で地域おこし協力隊をやることになったのですか?
「東京出身なのですが、ずっと田舎で暮らしてみたいなあって思っていたんです。長野には山登りや旅行でよく来ていたので、親しみのある地域でした。そんなとき、飯綱町で地域おこし協力隊を募集していることを知り応募したところ採用され、2019年1月に飯綱町にやって来ました。フルーツ加工施設の立ち上げと運営、加工品の開発が私に与えられたミッションです」
ということは飯綱に来る前も食品加工に関係したお仕事をされていたのですか?
「いえ、実は東京で百貨店の販売員や事務員などをしていたんです。なのでフルーツ加工は全く新しい領域の仕事でした。最初の1年はどこから始めれば良いのか全くわからず、手探り状態でしたね」
他分野からの転身で、大きな仕事を任された松本さんでしたが、信州中野市の加工工場「たかやしろファーム」や松本市の「今井恵みの里 農産加工施設」へ研修に行くなど、食品加工についての勉強を重ねました。2020年から、より具体的な施設建設や運用についての会議が始まり、ついに2021年1月に施設が完成、運用が始まりました。
松本さんの努力の甲斐あって、いいづなフルーツファクトリーは順調で、飯綱町にとって欠かせない施設になりつつあります。一方、松本さんは今年の12月末で、3年間の任期が終わるそうです。任期終了後はどうされるんですか?
「今後やっていきたいデザインの仕事をするために準備をしつつ、運営からは少し離れますができる範囲で加工所はサポートしていきたいと思っています。加工所の仕事を進めるうちに、外部に委託するくらいなら自分でデザインできたらいいな、いつか必要になるのではないかと思って、デザインソフトの使い方を勉強していたんです。いざ施設がオープンすると、やはり商品のパッケージデザインが必要となって。いいづなフルーツファクトリーのロゴや、商品のパッケージは私がデザインしたものなんですよ」
「加工所を利用してジュースを作ったりんご農家さんも、ビンに貼る商品ラベルが要りますよね。農家さんが、デザイナーさんを探したり印刷を手配したりするのは、ハードルが高い。そんなとき、そこでラベルも一緒に作ってくれたら便利なんじゃないかと思って。しかも、加工所で顔見知りの私が作れたら、気軽に頼んでいただけるかなと」
松本さんのあたたかみのあるパッケージだと、それだけでおいしくて品質の高い商品に見えますね。
そして地元の農家さんがより簡単に、オリジナルのりんごジュースを作って販売する仕組みができれば、「飯綱で作られたのものを飯綱で売る」という6次産業化がさらに進むのではないでしょうか。
ほかの地域おこし協力隊の方は、飯綱町をよく知ってから移住された方も多いですが、松本さんは協力隊になってから初めて飯綱町に来たんですよね。暮らしてみて、どうですか?
「最初の頃は、正直ここまで飯綱町のことを好きになるとは思ってなかったんです。でも暮らしていく中で、どんどん飯綱町の魅力にはまっていきました。なんて居心地がいいんだろうって」
「人とかかわることが好きなんです。家を一歩出ると、ご近所さん、仕事場、途中に寄ったお店や施設で誰か知り合いがいて、ちょっと話ができる。これはこの地域ならではだと思うんです。東京に住んでいたときは家と仕事の往復で、職場以外の人と会話せずに1日が終わってしまった、なんてこともありましたから。
ご近所さんもやさしいんです。帰ると家の前に野菜がどん、と置いてあったり、草刈り機の電源が入れられなくて困っていたら、通りすがりの人が助けてくれたりと、本当に助けられています。それにやっぱり飯綱の自然が好きです。朝起きてカーテンを開けたときに、自然が広がっていると気持ちいいなあと思います」
「休みの日は、川上地区にある、くろやなぎ農園という農家さんのお手伝いに行っています。自然農法で米や野菜をつくったり、里山づくりをしていたり、とてもおもしろい農園なんですよ」
里山づくりとは何ですか?
「里山というのは、人の手が入った森や林のことです。くろやなぎ農園の里山では、花木が植えられていたり、アケビなどの木の実やキノコが採れたり、栗拾いができたりします。また、クワガタが来る仕掛けなんかもあるんです。山に入らなくても、いろいろな自然体験ができるんですよ。ここで採れたサルナシ(小ぶりのキウイフルーツのような果物)をジャムに加工したこともあるんです」
「くろやなぎ農園では、農作業をしてみたい人たちを、研修生として全国各地から受け入れています。その中には飯綱町に移住を決めた人も何人かいるんですよ。行くたびにいろんな人たちがいるので、農園で働く人たちとの交流も楽しいです」
仕事もプライベートも、ほぼ飯綱町の中ですね。松本さんは飯綱町の暮らしを十分に満喫されているようです。
「よかったら飲んでみてください」と差し出されたのはりんごジュース。なんと、お土産をいただいてしまいました!
「夏あかりという品種のりんごジュースです。少し桃のような風味があるんです」
かわいらしいりんごの名前が書かれたビンも小ぶりで愛らしい。
ごくごくごくと一気にいただきました!
夏あかりのジュースは、スッキリとやさしい甘さがしました。まさに松本さんのようでした。これからのご活躍を楽しみにしています!