牟礼駅からほど近くに建つJAながの飯綱支所。その駐車場の先、看板も出ていない奥まった場所にパン屋さんがあるということは、もしかすると、飯綱町民ですら知らない人もいるかもしれません。
パン屋さんの名前は「三水製パン」。
第一スーパーや飯綱病院にも惣菜パンやサンドイッチなどを卸しているので、お店を知らなくても、三水製パンの製品をどこかで見かけたことがあるという人もいるかもしれません。
飯綱町で育った人なら、学校給食で出てきたパンを思い返してみてください。実はそのパンも、三水製パンでつくっていたパンなんです。
二代目の金子礼次郎さんにお話を聞いてみました。
「旧三水村(合併前の飯綱町)で学校給食を始めるにあたり、埼玉県で菓子職人をしていた父が招かれて、この地に来たそうです。父は村の職員、農協の職員を経て、個人のパン屋さんをはじめました。それが昭和42年のころだと思います」
先代は、昭和49年に有限会社三水製パンを設立。学校給食のほか、当時は近隣のスーパーや小さな商店にパンを卸していたそうです。
息子である礼次郎さんは、東京のパン屋さんで5年間修行。子どもの頃からスポーツが好きだったこともあり、「東京でパンの仕事を覚えて、実家を継いで大好きなスキーやサーフィンをしよう」と考えていたそうです。サーフィンは全日本サーフィン選手権大会に出場できるほどの腕前だった礼次郎さん。しかし、「大きな大会に出場しようにも、パン屋の仕事を休めなくて、出られない。それだけは計算違いでした(笑)」
三水製パンの直売所を新設したのは、平成24年のこと。スーパーの閉店などに伴い販売先が減り、お客さんから「どこでパンを買えるの?」「おたくのパンが食べたい」という問い合わせがあったことが理由です。
「最初は入り口の棚1つ分くらいのスペースで売っている程度でした。でも実際に直売所を始めて、お客さんと直接話をするようになったら、『こんなパンが食べたい』『今日はあのパンはないの?』という要望をたくさん聞くようになっちゃって、気がついたらこんなに種類が増えてしまいました(笑)」(礼次郎さん)
パンは60種類ほど。8タイプのパン生地を使い、たくさんのバリエーションを少量ずつ作っています。
「季節の食材を取り入れるなど、『この食材とこの野菜を合わせてみたらおもしろいんじゃないか』とか、思いついたら試作しています。月2回くらいは新しいパンを出しているかな」
ふだんは午前4時ごろからパン作りを始めていますが、種類が多くなりすぎて、少し減らそうかと思ったときもあったそう。
「でも、それぞれのパンにファンがいるので、それも難しくて(笑)。やっぱり、お客さんに喜んでもらえるのがいちばんだからね」
営業時間も、はっきりとは決まっていません。パンは、焼き上がったものから徐々に揃えていき、種類がいちばん豊富なのは10時ごろ。人気のフランスパンシリーズは、11時ごろに焼き上がります。一番人気は、牛乳パン。お得な5個入りのアンパンも外せません。
「今までずっと、甘いパンが売れていたんですが、去年くらいからお惣菜のパンがよく売れるようになりました。でも、夏休みになるとやっぱりお子さんが好きな甘いパンが人気ですね。小さなお子さん連れのお客さんには、小さなニコニコパンをサービスしているんですよ」
家族や町内の集まりがあるときなどは、サンドイッチのオードブルも注文可能です。値段に応じてオーダーできるので、仲間や親戚が集まるときなどの、ちょっとした軽食として利用してもいいですね。また、予約をすればクリスマスにはホールケーキも作れるそうです!
宣伝はまったくしておらず、ネットでの情報発信もしていない三水製パン。お客さんは、地元の方が中心です。
ご近所さんが散歩ついでに立ち寄ったり、農作業の合間のおやつに買っていったり……。夏休みや連休中は別荘のお客さんが増えますが、「いつも同じ方が利用してくださることが多いです。もしくは、常連さんが友達を連れて来てくれて、その方が常連になることもあります」と、礼次郎さん。
給食のパンも、小さなころから保育園や学校で食べるパンだからこそ、一生懸命つくっています。子どもたちが大人になったときに「パンが好き!」と言ってもらえるように。そして、成長してから三水製パンを訪れたときに「懐かしい。給食で食べた思い出のパンだ!」と言ってもらえるように。
町内の子どもたちと、たくさんの常連さんと、口コミでゆっくり広まる新しいお客さん。三水製パンはそんなローカルな輪に愛され、支持され、今日もオーブンから香ばしい香りを立ち上げているのです。
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三水製パン 住所:長野県上水内郡飯綱町普光寺940-7 TEL:026-253-3022