トップいいいいいいづなマガジンいいづな手みやげ手帖/Vol.2 菓子ごよみ明月堂「ながーいアップルパイ」

いいづな手みやげ手帖/Vol.2 菓子ごよみ明月堂「ながーいアップルパイ」

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秋から初冬にかけて、飯綱町ではりんご収穫の最盛期を迎えます。農家さんはもちろん、地元のお店もりんごを使ったメニューづくりに大忙し。牟礼本町商店街にある「菓子ごよみ 明月堂」でも、まだ薄暗いうちから仕込みがはじまり、オーブンから休みなく熱が発されます。扉を開けるとパチパチとパイ生地が弾ける音とバターの香りが軽やかに立ちのぼり、今、名物の「ながーいアップルパイ」が焼き上がりました。

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「使っているのはすべて、飯綱町産の紅玉。とにかくジューシーに、りんごが主役のアップルパイを作りたかったんです。だから、ひとつのりんごを半分から1/3くらいに割ってゴロゴロ入れられて、しかもカットしても中身がはみ出してこない、この『ながーい』形にしたんですよ」

笑顔でそう話すのは、明月堂の3代目店主、藤縄直美さん。

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明月堂は大正15年創業。牟礼宿の魚屋に婿入りした直美さんの祖父・勇作氏が、それまで修行を積んできた和菓子への思いを諦めきれず、店の2階に菓子店を開いたのが始まりです。当時は砂糖や水飴を練って、鯛や海老などの木型に入れて打ち出した「打菓子」が商品の主流でした。

昭和30年頃に店を継いだ息子の卓治氏は、好奇心旺盛で積極的に外へ出る性格。新しい素材や技術を取り込み、和菓子を引き継ぎつつ、商品の幅を洋菓子まで広げました。積極的に東京へも足を運び、当時まだ珍しかった生クリームをバタークリームの代わりに使ったり、全国的に流行していたチョコレートの「たぬきさんケーキ」や、ジャムをバタークッキーで挟んだ「ロシアンケーキ」を店頭に並べたりと、牟礼のお菓子作りに新しい風を吹き込みました。

昭和60年、東京の製菓学校を卒業した直美さんは実家に戻り、3代目として後を継ぎました。「最初はいろいろなものを作りたくて、実際そうしていたのですが、自分が作りたいものと売れるものが、必ずしも一致するわけではないんですよね。戸惑いながら、経験を積むしかなかったです」と、当時のことを振り返ります。

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洋菓子部門の看板商品ともいえる「ながーいアップルパイ」が誕生したのは、今から10年ほど前のこと。地元のりんご農家さんと話をしたのがきっかけでした。

「農家さんが一生懸命りんごを育てても、収穫前に台風などで落ちてしまうと、ジュースなどの材料として安い値段で売るしかなくなる。その話を聞いて、地物のりんごが町の中で回るしくみを作れないかと考えたのがきっかけでした」

直美さんがアップルパイの材料に選んだのは紅玉。甘みはもちろん酸味もしっかりとある小ぶりのりんごです。紅玉は加工用としても人気ですが、煮くずれしやすい品種です。理想とする“りんごがごろっと入ったアップルパイ”を完成させるためには、試行錯誤もあったそう。

「香りがよく、味のバランスもいい紅玉ですが、煮るとすぐにクタクタになり、形が崩れて小さくなってしまうんです。味は美味しいのですが、りんごのジューシーさを表現するには大きいまま入れたい。そんなとき、農作物の加工がとても上手な業者さんを見つけました。ここが加工すると、紅玉でも、シャキシャキとしたコンポートになるんです」

りんごが多いため、生地にはアーモンドプードルを練り込んでコクを出しました。シナモンはほんのり軽く、りんごを引き立てるための隠し味程度に。食感と香りを楽しむためのクルミも、このアップルパイになくてはならない名脇役的存在です。

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「焼きたての『ながーいアップルパイ』は、10月から1月第1週まで販売しています。それ以外の時期は、焼きたてを冷凍したものがあります。焼きたてはもちろん美味しいのですが、冷凍したアップルパイを室温に置き、半解凍くらいで食べると、りんごのジューシー感が際立ってこれまた美味しいんですよ。夏におすすめの食べ方です」

町外からりんごを買いに来た人が買い求めたり、地元の人がお土産にするなどして、多いときで1日40〜50本くらい売れるそうです。

ブルーベリーやラ・フランス、ブラムリーなど、飯綱町にはほかにも美味しい果物がたくさんあります。クルミも、町内で採れるのですが剥くのが大変で、なかなか商品に使うまでにはならないそう。「でも、なるべく地元の素材を使ってお菓子作りをしていきたいので、加工などをどのように回していくのかがこれからの課題だと思っています」と、直美さん。

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りんごの形の落雁

直美さんには、もう一つ目標があります。洋菓子の方が注目されることが多いのですが、明月堂の始まりを支えた和菓子にも底知れぬ魅力と可能性があり、それを若い人に伝えていくということ。

「和と洋を融合させたりしながら、和菓子の良さを伝える方法を見つけられたらと思っています。そういえばこの間、父のレシピノートが出てきました。そのレシピをアレンジしながら、若い頃の父と私のコラボというのもおもしろいかもしれないですね」

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菓子ごよみ 明月堂    住所:長野県上水内郡飯綱町牟礼2724     TEL:026-253-2100

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