トップライターはっさく堂さんワイン好きが高じてソムリエの資格を取得。ついに憧れの醸造家に! サンクゼール・ワイナリー 戸津かおりさん

ワイン好きが高じてソムリエの資格を取得。ついに憧れの醸造家に! サンクゼール・ワイナリー 戸津かおりさん

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「Country Comfort(田舎の豊かさ、心地よさ)」をコンセプトに掲げ、St.Cousairや久世福商店など4つのブランドを展開する株式会社サンクゼール。自社店舗が全国に150以上もある大きな企業ですが、その本店は、ここ飯綱町の小高い丘の上にリンゴとブドウの畑に囲まれて立っています。
1988年にワイン試験製造免許を取得してから、サンクゼールはワイン醸造に情熱を注ぎ込んできました。現在、自社ブドウ園(ヴァンヤード)は合計10ヘクタールまで拡大。飯綱町内を中心に3つの地域に分かれているため、日当たりや水はけ、標高などにより、それぞれのヴァンヤードは特徴的なブドウを実らせるそうです。

とある晴れた日、サンクゼールの丘を訪れました。正面のブドウ畑を抜け、アーチのあるパティオを通ると、右側に見えるのがサンクゼール・ワイナリーの醸造所。いまや世界中のワイン愛好家たちに熱望されるワインが生まれる場所です。
ひんやりしたカーヴの中では、つなぎに身を包んだ醸造家たちがそれぞれの作業を行っています。そのなかの一人、戸津かおりさんに、ワイナリーの仕事にたどり着くまでのお話をうかがいました。

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戸津さんは山形県出身。山形では観光会社と契約し、ツアーガイドとして働いていました。添乗員として北信エリアを訪れる際は、サンクゼールの前身である「斑尾高原農場」でジュースやジャムの試飲・試食をいつも楽しみにしていたそうです。

ガイドの仕事は楽しかったのですが、契約が切れるのを機に「今度は自分が行きたい場所に行こう」と思った戸津さん。「終の棲家にするならどこだろう?」と考えたとき、戸津さんの脳裏に長野県の風景が浮かびました。
「北アルプスが見えるところに住みたかったのと、思い切りスノーボードがしたかったので、志賀高原のペンションでアルバイトを始めました。ワンシーズン過ごして、春になったらどうしようかと思っていたら、近くにサンクゼールがあるということに気付いたんです」
サンクゼールの経営理念や、チャペルの雰囲気が好きだったという戸津さん。
「ぜひとも働きたいと思って、サンクゼールに直接行って『仕事ないですか?』と聞きました(笑)」

そのときは社員の募集がなく、一度は諦めたそう。しかし、半年経っても「サンクゼールで働きたい」という気持ちが消えず、再度電話で問い合わせました。すると今度は、「店舗を拡張するタイミングなので、ちょうど人員がほしかったところです」との返事が。戸津さんはすぐに面接を受け、見事合格。平成18年に入社となりました。

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「サンクゼールは面白い会社で、いろいろな仕事をやらせてくれました。カフェで働いたり、ブライダルのプランナーをしたり、軽井沢のレストランの立ち上げにも参加しました」
直営店が全国に点在しているため、転勤もありました。御殿場、仙台、茨城、小布施など、各地の店舗に配属され、短くて半年、長いときで2年ほど働いたそうです。
「店舗では、お客様とお話して、どんなニーズがあるのか、どんな商品が喜ばれるのかを学びました。そして同時に、転勤生活の中で自分が本当にやりたいことも見えてきました。私は、ワインを売ることがとても好きだったんです」

故郷・山形県もワインの産地で、もともと日本ワインになじみがあったという戸津さん。しかし、初めてサンクゼールのワインを飲んだときの衝撃は今も忘れられないと言います。
「そのおいしさにとにかくびっくりしたんです。それに、お客様がワインを喜んで買っていってくれるのもとってもうれしくて、次第に『ワインに携わる仕事がしたい』と思うようになりました」

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当時のワイナリーメンバーは、本場フランスの有名ドメーヌで醸造を経験した者など、そうそうたる経歴を持つ人たちばかり。ワイナリーに配属されるのは狭き門でした。それでも、簡単に諦める戸津さんではありません。「それならば、今自分にできることをやろう」と考え、プライベートでソムリエの勉強を始めることにしました。

「軽井沢の店にいたときにワインスクールの先生と知り合いになったので、当時先生がいらっしゃった上田市へ通い、ワインの講義を受けました。生徒が何人もいるので、いろんな種類のワインを少しずつ試せるのがありがたかったし、何よりワイン好きな人たちと一緒に勉強するのが楽しかったです」

最初は「ワインの勉強が、いつか何かの役に立てばいいな」くらいの気持ちだったそう。
「だけどワインの奥深さに触れるにつれ、気持ちにわーっと火が付いて、ワインをつくる仕事がしたい!と、どんどん熱くなったんです(笑)」
そしてちょうどその頃、ワイナリーが製造部門から単独の部門になり、新組織として立ち上がりました。

「部長のところに行き『機会があればワイナリーユニットに呼んでください!」とお願いしました。それからも店舗で働きながら、自主的にワインの勉強を続け、2017年にソムリエの資格を無事取得しました」

チャンスが巡ってきたのは、2022年の夏でした。社内でワイナリー部門の人員募集があったのです。戸津さんは「こんなチャンスはめったにない!」とすかさず挙手。ソムリエの資格なども評価され、めでたく採用となりました。

戸津さんのワイナリー勤務は、ブドウの収穫が始まる最盛期にスタートしました。この時期は体力も必要となるため、朝起きてから、気がつくと1日が終わっているような感覚だったそうです。ブドウの仕込みが終わり、季節が冬へと移り変わると、今度はシードルの仕込みが始まります。秋から早春にかけては、目まぐるしい日々だったと、戸津さんは当時を振り返ります。

「大変なこともたくさんありました。だけどやっぱり、ワインに関わることができて幸せです。ワインって本当に奥が深い。同じブドウでも、畑の区画や収穫のタイミング、搾り方、樽、酵母など、いろいろな要素で味が変わるので、わざと違う樽で仕込んだワインをブレンドすることもあるんです。そうして、味や香りに複雑さを出したりして、個性を際立たせるんですよ」

ブレンドは戸津さんも行いますが、まだまだ勉強中とのこと。
「混ぜる量がほんの1%変わるだけで、味が違ってくるんです。ベテラン社員だと、樽の個性を熟知しているので、1〜2回のブレンドでピタッと味が決まる。私も早くそういうふうに、自信を持ってワインをつくれるようになりたいです」

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ワイナリーに配属されてから2年、毎日勉強することがたくさんあるという戸津さん。サンクゼール本店では、1日3回行われる無料ワイナリーツアーのほか、有料のテイスティング付きワイナリーツアー、ガーデンランチ付きワイナリーツアー(ともに要予約)も開催されており、醸造の現場をお客様が見学されることもあります。そんなとき、さまざまな業務を担当した経験が生きてくるといいます。
そして将来的には、ブドウ栽培もしてみたい気持ちがあるそうです。
「ワインはブドウ果汁だけでつくるお酒。ブドウが一番大事なので、ブドウ栽培も勉強すれば、もっといいワインをつくれるようになると思うんです」
いつか、自分ひとりで、自分だけのワインを醸造したいと思いますか?
その質問に、戸津さんは笑顔でこう答えました。
「今私は、とても素晴らしいチームでワインづくりをさせてもらっています。だから自分一人よりも、みんなで、サンクゼールとしてワインをつくりたいです」

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サンクゼール・ワイナリー本店
長野県上水内郡飯綱町芋川1260
TEL 026-253-8002

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