■善光寺土産として有名な七味唐辛子
善光寺参りのお土産として、あまりにも有名な八幡屋礒五郎の七味唐辛子。善光寺とトウガラシが描かれたレトロなブリキ缶をキッチンに常備して、そばやうどん、豚汁、丼ものなどにひと振りするのが好きな人も多いのでは? そして中身を使い切ったとき、お店で手にするのは詰替え用の袋入り。実はその袋入り七味唐辛子、何を隠そう、飯綱町産なのです。
八幡屋礒五郎の牟礼工場があるのは町民会館のすぐ近く。長野市若槻と飯綱町とを結ぶ県道長野荒瀬原線から少し入った、工場とリンゴ畑が点在するエリアです。
「牟礼工場は、2014年6月に新設いたしました。それまでは長野市柳町の本社に併設した工場と飯綱高原にある加工場で製造や充填を行っていましたが、原料の焙煎や粉砕、袋入り商品の製造などはこちらで行うようになりました」
そう話すのは、工場長の北村創さん。
「飯綱町を選んだのにはいくつか理由があります。まず、柳町の本社から車で約30分とアクセスがいいことと、工場を建設するためのまとまった広さの土地、そして工場に隣接する農地を確保できたこと。それから、飯綱町さんが協力的であったということも理由のひとつです。まちのサポートがあったおかげで、順調なスタートを切ることができました」
併設する農場では、1ヘクタールの栽培面積にトウガラシ、シソ、ゴマ、山椒などを作付けし、原料の一部を生産しています。そのほか、飯綱町や長野市の近隣農家とも契約し、山椒やトウガラシを仕入れているそうです。
「トウガラシはもともと熱帯の作物で、信州のような冷涼な気候は苦手とします。しかし地元で原料を生産したいという思いがあり、信州大学と共同で研究チームをつくり、冷涼な気候でも強い辛みを維持できる『八幡屋礒五郎M-1』という品種を開発しました」
八幡屋礒五郎の七味唐辛子は生産量が多いため、原材料のほとんどは仕入れとなりますが、地元産原材料を増やす取り組みは今後も続けていくそうです。
「仕入れたものが良質かどうかを判断するのに、自分自身が農作物のことを知っているかどうかというのは大きく影響します。そのためにも、自社農園は必要なんですよ」
長野県産トウガラシを取り入れた七味唐辛子は、善光寺門前にある本店での調合販売や、善光寺境内地のみで限定販売されている「善光寺参り缶」などで使われています。
■原料を、もっとも美味しく香り高い状態に
複雑なスパイシーさが心地よい名物の七味唐辛子は、どのような工程でできるのでしょうか?
畑で取れたトウガラシなどは、まずは天日で自然乾燥させます。その後、もぎ取り、洗浄、機械での乾燥、選別を経て原料となります。
手作業で丁寧にもぎ取ります。
こちらが乾燥させる機械。香りや色は温度で変わるため、いちばん香り高く鮮やかな色になるように風と温度を調整するそうです。
乾燥が終わったトウガラシは、ツヤのある鮮やかな色になります。
ゆず七味の原料となる天龍村のユズ。手でむいた皮を仕入れ、乾燥させます。
万願寺とうがらしは、甘みと香りが特徴。辛くない七味唐辛子や店頭調合、カスタムブレンドPRO(飲食店などのオリジナル七味)の材料として利用します。
目視でトウガラシを選別します。形のきれいなものは鞘で使い、それ以外は粉砕します。
次に、シソ、山椒、ショウガ以外の材料を直火で焙煎し、粉砕します。
こちらは、トウガラシ専用の焙煎機です。トウガラシは最も量を多く使うため、週に1度、まとめて行います。
香りの落ちやすい素材、熱に弱い素材、熱に強い素材など、原料によって粉砕機を使い分けているそうです。
「粉砕機は6台あります。ものによって、ベストな状態に粉砕します」と、北村さん。
こちらは学校給食などでチャーハンを作るときに使う調理器。これも焙煎に利用します。
完成した一味。この一味(バンショウ)にシソ、麻種、陳皮、ビャクキョウ(ショウガ)、山椒、ゴマを入れて七味となるのです。
七味への調合は、牟礼工場で行います。これは調合機から七味を袋に出しているところ。
袋入り七味や、ひとふりサイズ(0.2g)の小分け包装は牟礼工場で製造しています。
■飯綱町で育つ花椒の木
自社農園の片隅では、数本の低木が育っています。
「これは花椒(ホアジャオ)、中華料理でよく使われるスパイスです。日本ではほとんど生産されていませんが、4年前から苗を育て、去年から商品化をはじめました」
ほんのわずかな量しか採れないため、今はまだ、粒花椒としてミルで挽きながら使うことしかできないそうです。
「でも、花椒をほんのひと振りするだけで、ピリッとくる辛さと香りが料理を引き立ててくれる。もっとたくさんつくることができれば、粉にしていろいろな七味をつくることができます。これからは自社農場産の花椒、そして長野県産原料の拡大に力をいれていきたいですね」
こちらが花椒の木。2017年に中国から苗を輸入し植付け、2018年に初めて実がなり、2020年にどうにか製品に使用できる量が収穫できたそうです。
飯縄山や黒姫山などの雄大な山並みと、あたりに広がる田んぼやリンゴ畑。そんな飯綱町の環境で育つ花椒が、いつか八幡屋礒五郎の新たな名物になってくれたら。私たちまちで暮らす人にとっても、大きな喜びとなりそうです。