トップライターKAORUさんいいコネEASTで見つけた!「粉と水を混ぜて焼く」が大好き女子、高木しず花さん

いいコネEASTで見つけた!「粉と水を混ぜて焼く」が大好き女子、高木しず花さん

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今日も間違いなくタルトがおいしい泉が丘喫茶室(いいづなコネクトEAST内)の一角に、ずっしりと存在感のある、抽象画のような模様の器が展示されています。陶工房赤塩で活動するnonky-nonky高木しず花さん(30)の作品展「IIZUNIZE(イイヅナイズ)」です。

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作品を説明するカードには、まるで詩か物語のような不思議な言葉が書かれています。
「山のいつも・ノーチ」とタイトルが付いた作品には、「ひとは山にきっちり線を引いて、新しく「農地」と名づけてきました、梅のおにぎりもって畑に行こう」という文章が添えられています。まるで飯綱町全体が絵本になってこのお皿に凝縮されているような、もしくはお皿から風景が飛び出して、山もふもとの畑で作業の休憩時間、このお皿におにぎりがいくつも並んで、大勢の人の手が伸びてくる景色が目に浮かぶようです。

物語の一部分を切り取ったような作品説明を、高木さんはキャプションと呼んで、学生時代から書いています。しかし、美術の先生にはいい顔をされなかったそうです。
「イメージは作品に込めればいい、という人もいますが、私は、作品をつくっているうちに頭に浮かんでくる物語も伝えたいんです。あくまで作品の邪魔をしない範囲で」
高木さんは、作品にテーマを持たせることを大切にしていて、焼き上がったところでタイトルとキャプションを考えるそうです。

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この大きな鉢のタイトルは「ミキシングボウル」。キャプションには「いつかなにかを作るときに、もしかしたら使えるかもしれないてきとうな目盛りがついています」とあります。こちらは、私が一目ぼれして買い求めました。置いてある佇まいは、サラダボウルにしたり煮物を入れるのにもよさそうな雰囲気ですが、「いつかなにかを作るときに」と書かれていると、この鉢にちょうどいいお料理を作ってね、とでも言っているような挑戦的なメッセージにも受け取れ、料理好きの心をくすぐります。「てきとうな目盛り」にも、自分だけのものにしてやろう、使いこなしてやろうという独占欲が刺激されました。

赤塩焼とは、江戸時代後期から60年間ほど飯綱町赤塩で焼かれていた焼き物。昨年から陶工房赤塩として始動している元地域おこし協力隊の冨高俊一さんが復活させました。

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高木さんは、縁あっていいコネEASTに通うようになり冨高さんを紹介され、2022年7月から工房の一角を借りて赤塩焼を作り始めました。長野県須坂市出身の高木さんは、「人がわいわい集まるところで使う“ものづくり”がしたい」と陶芸家を目指しました。専門科のある東北の大学に入るのですが、入学直前の2011年3月に、東日本大震災が起こります。入学式が行われたのは、ゴールデンウィークが明けてからのことでした。
「週末は、石巻にボランティア活動に通いました」
高木さんも先輩について、被災地に何度も足を運び、瓦礫の片付け、泥かきなど、ボランティアに励んだと言います。
「ある避難所にお茶の先生がいたことから、お茶会が開かれることになったんです。私もその日のためにお茶碗を3つほど焼きました。参加はできなかったのですが、後日友人から動画や写真を見せてもらって、自分のつくった茶碗が使われたことに大感動でした。震災の混乱のなかだからこそ、必要な風景だなと感じました」
大学4年間で陶芸の技術を学び、大学院に進学してからは地域の食文化に即した器づくりを目指し、フィールドワークに力を入れました。

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置く必要がないから、あえて不安定にした器

豪雪で知られる山形県肘折温泉は、湯治場らしく自炊場が設けてある旅館も多く、温泉街の朝市で購入した旬の食材を使って料理をつくり、気ままに食事を楽しむ文化があります。高木さんはそこでカレーを振舞いました。帽子をひっくり返したような不安定な形の器は、なんとカレー皿なのだそう!「テーブルを使わずに、みんなお皿を持って縁側に座って食べるんです。置かないなら、あえて置けない形にしてしまいました。半分に切ったら肘折の「ひ」の形なんですよ」。

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宮城県の牡鹿半島蛤浜で拾った石を模した器。特徴的な石が護岸工事で埋まってしまうというのです。石を石膏で模り、窪みをつけました。この窪みには、なんとゴマプリンを注ぎ入れるのです。こちらの器は、現地のカフェで今でも大切に使われているそうです。

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日本海に浮かぶ島、飛島(山形県酒田市)にある「円福院」というお寺では、おばあちゃんたちが念仏をあげる前に、ガッツリ甘い「てらコーヒー」を飲みながらお茶の時間を楽しむそう。高木さんは「てらコーヒーカップ」に飛島の海と空の青を映しとりました。丸い穴は、数珠回しをイメージしたものなのだとか。

卒業後は地元で調理員として働きますが、「こねて焼きたい」とうずうずする気持ちはパンと焼き菓子に向けられます。「とにかく作りたくて、自家用にパンを捏ねていました」
そんなとき、運命的とでもいうタイミングで、いいづなコネクトEASTのスタッフと出会い、赤塩焼を紹介された高木さん。「また陶芸ができることになって、ご縁に感謝しています。ここにいるからには、赤塩焼を盛り上げていきたいし、町の人に知ってもらいたい」と意気込みます。先日、赤塩地区の区長さんから、「お猪口をつくってほしい」と注文をもらったそうです。「宴会で皆さんが使ってくれて、喜んでもらえたと聞いて、本当にうれしい」と顔をほころばせていました。

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高木さんのブランドであるnonky-nonkyのカードの裏には、肩書きに「ヒトデ・ノンキ・ラボラトリー代表」と書いてありますが、これは高木さんの将来展望を表しています。ヒトデは、海の生物のヒトデのことで5本指の形から「5」を表しています。やりたいことが、5つあるのだそうです。

1つ目は、陶芸。

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人が集まる場所で使ってもらえる食器が作りたいという高木さん。「こんなイメージの器がほしい」「自慢のこの料理を盛り付けるための器がほしい」といった注文にも応えてくれるそうですよ。

2つ目は、焼き菓子。

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そうです、高木さんは陶芸の土だけではなく小麦粉も捏ねるのです。週末には泉が丘喫茶室のケーキ棚の上に高木さんのマフィンも並びます。

3つ目は、ドーナツ。ドーナツは高木さんの大好物でもあります。いいコネEASTで知り合った方と2人で、ドーナツの移動販売の店舗を開店しようと準備を進めているそうです。今から口にできる日が楽しみです。

4つ目は、ミュージアムショップ。飯綱町は「町そのものが美術館」。飯綱の景色、おばあちゃんの手芸、工芸、どれもこれもアートに見えると高木さん。それらがお土産の品として並ぶようなミュージアムショップができたらいいなと考えているそうです。高木さんの赤塩焼の器も、多くの人の目に触れるようになってもらえたらうれしいですよね。

5つ目は、未来。やりたいことを4つに限定されないように取っておくプラスアルファだそうです。

ヒトデ~人で、ノンキ~呑気~non器(ただの器じゃない)~non-key(心の鍵をはずす)

高木さんの気持ちをリズミカルな言葉遊びにして表現する、まるで魔法の呪文。これからも高木さんの手から生み出されるであろう、たくさんのアイデアや作品に、期待が膨らみます。粉と水を混ぜて焼いてできるものは、パンや器だけではなさそうです。

 

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