トップライターはっさく堂さんパリ・ファッションウィークで、飯綱町の「リンゴ染め」デニムが会場を魅了!

パリ・ファッションウィークで、飯綱町の「リンゴ染め」デニムが会場を魅了!

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2025年3月、パリ・エッフェル塔を望む宮殿ホテル「シャングリ・ラ パリ」で、華やかなファッションショーが開催されました。

テーマは「パンク」。日本のデザイナーグループ「再倖築(さいこうちく)」のルック(モデルが着用するコーディネート)がランウェイに登場した瞬間、会場のあちこちで、驚きとも感嘆ともつかない声が上がりました。オーバーサイズのスウェットトップに合わせられていたのは、ビンテージ感漂うウォッシュド・オリーブのデニムパンツ。何色とも言い難い色ムラや濃淡のグラデーション、フェード感が際立ち、世界各国から集まったインフルエンサーたちにとっても、見慣れない新鮮な色合いだったようです。

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このパンツを染め上げたのは、飯綱町で活動する「苹果(ピンゴ)染グループ」。40年以上にわたり、リンゴの木の皮などを使った染め物に取り組んできた、地域の有志による団体です。その活動が初めて、世界的なファッションシーンでスポットライトを浴びた瞬間でした。

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プロジェクトの仕掛け人は、飯綱町の地域おこし協力隊・原口光雄さん
「2023年に着任してから、いいづなアップルミュージアムの学芸員として活動していました。そのなかで初めてリンゴ栽培に関わり、剪定した枝や摘果した実、傷のあるリンゴなど、利用されずに廃棄されてしまうものが多いことを知って、驚きました」

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パリへ赴きショーを見届けた原口さん夫妻

本来なら捨てられてしまうものを活かして、新たな価値を生み出せたら──。そんな思いを抱いていた原口さんは、ミュージアムで展示を行っていた苹果染グループの活動を知り、その考えをさらに深めていきました。
ちょうどその頃、妻の麻希さんが出身地・奄美大島で、伝統工芸品である大島紬のブランド化プロジェクトに関わることに。そのつながりで、「再倖築」のデザイナーを紹介してもらったそうです。

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「再倖築は、古着をベースにしたリメイクブランド。本来なら使われない素材を活かすという点で、リンゴ染めと理念が通じ合うと感じました。だったら、この2つを掛け合わせて、アップサイクルの視点から服をつくったら面白いんじゃないかと思って」
企画は順調に進行し、再倖築のデザイナーからデニムパンツが送られ、飯綱町で染めが行われることになりました。

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「パンクがテーマだったので、ミーティングでは『綺麗に染めすぎず、ムラがあって荒々しい仕上がりにしたい』という話になりました。リンゴ染めは、染料となる木や実の割合、収穫や剪定の時期によっても色が変わるんです。どんな色になるか分からないというランダム性も、デザイナーさんたちは面白がってくれました」
苹果染グループにとっても、デニムを染めるのは初めての挑戦でした。それまでは生成りの生地しか扱ってこなかったため、藍で染められたデニムがどのように変化するのか、誰も予想ができなかったのです。
しかし、実際に染め上げてみると、黄色でも黄緑色でもなく重ね染めされた深みのある色が現れ、参加者全員が感嘆の声を上げたそう。そして、その驚きは海を越え、パリのランウェイでも観客を魅了したのです。

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「『日本一のりんごの町』を掲げる飯綱町のリンゴ染めを、パリのファッションショーで紹介できたことは、町のPRにもつながったと思います。リンゴ栽培は町の主力産業ですが、そこから派生したリンゴ染めの技術も、アパレルなどの分野で活用されていってほしい。そしていつか、町の産業として盛り上がっていければいいなと思っています」
今回のショーの世界観を町の人にも感じてもらいたいと、今年10月には「いいづなアップルミュージアム」で企画展の開催も予定されているそうです。そのときには、リンゴ染めによって生まれた唯一無二の色合いを、ぜひ実際にご覧になってみてください。

写真提供:原口光雄さん

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