トップライターはっさく堂さん学芸員、映像制作、情報発信のスキルを生かして地域おこし協力隊に着任した原口さん

学芸員、映像制作、情報発信のスキルを生かして地域おこし協力隊に着任した原口さん

01.jpg

飯綱町の丘の中腹、50種類以上ものリンゴの木に囲まれた「いいづなアップルミュージアム」。ありとあらゆる視点からリンゴの魅力を伝えるこの施設のスタッフに、2023年5月、新しい学芸員が加わりました。東京都出身で、地域おこし協力隊として飯綱町に移住した原口光雄さんです。
「今年3月に初めて飯綱町を訪れたのですが、のどかな雰囲気がスイスやニュージーランドの農村と似ていて、妻とアップルミュージアムのカフェでお茶を飲みながら『本当にいい場所だね』って話していたんです。それから、5月には飯綱町の住人になっていたのだから、本当にいろいろなことが、運よくタイミングよく運んだのだと思います」
リンゴが実り始めた木々を背景に、原口さんは穏やかに笑いながらそう話します。

02.jpg中国・四川省にある世界遺産の湖「九塞溝」にて

大学では法学部だったという原口さん。昔から世界遺産や絶景が好きで、世界遺産の数が最も多い中国を旅するために中国語を学び、在学中に1年間北京へ留学しました。卒業後は百貨店の三越伊勢丹に総合職として入社。最初の5年間は国内で経験を積み、5年目に念願の中国への海外赴任を実現しました。
「現地にはマネージャーとして赴任し、自らがセレクトした日本の逸品を中国の方々に紹介したり、現地の大型博物館とのコラボレーション企画を行ったりと精力的に活動。休みになると旅人に変貌して、中国内の世界遺産を旅しました。赴任当時、中国には55の世界遺産があったのですが、学生時代と駐在していた2年間を合わせて、そのうち約40か所を回りました。ちなみに旅に行き過ぎて、いつの間にか中国人の部下たちに『トラベラー』とあだ名をつけられていました(笑)」
中国赴任時には新型コロナウイルスの世界的大流行を経験。店舗が長期休業を強いられる中、何かできることはないかと考えて始めたのが、当時中国で大流行していたTikTokをはじめとする動画を使ったSNS運用でした。店舗に来られないお客さんと映像を通してつながれるようになり、映像が持つ大きな力を実感したそうです。

03.jpg原口さんと相棒のドローン。ミュージアムのカフェスペースで

2年間の海外赴任を終えて帰国すると、会社から中国での実績を認められ、情報発信をまとめる部署に配属されました。このころにはすっかり映像制作の魅力にハマってしまった原口さん。スクールと業務での実践を通して動画制作の技術を磨き、企業のPR映像制作や公式YouTubeチャンネル運用、店内サイネージ用動画づくりを任されるなど、映像の専門家としての道を歩み始めました。
「それはとてもうれしいことでした。だけど、中国に海外赴任して日本の良いモノやコトを現地の人に伝えるという夢がかない、会社での目標がなくなってしまったんです。そして、今後どういう人生を送っていきたいか考えるようになりました」
実は、原口さん夫妻には、お互いに出会う前から温めていた同じ夢がありました。それは、「世界一周の旅をすること」。
「当時、僕さえ会社を辞める決心をすれば、すぐにでも2人で世界一周ができる状態でした。ただ、僕は1つの会社でずっと働くのが当たり前だと思っていたので、仕事を辞める勇気が出なくて」
そんなとき、奥さまが「それならまず、やりたいことを書いてみようよ」と言ったそうです。やりたいことを10個書き出したとき、原口さんは言葉を失いました。すべて、今の会社に関係のないことだったのです。
「妻はそんな僕を見て、『それなら今の仕事を辞めて、夢をかなえたほうがいいんじゃない?』と言ってくれました。『人生は一度きりだよ』とも。そのとき、会社を辞める決心がついたんです。妻のその後押しがあったからこそで、僕ひとりではできない決断でしたね」

04.jpgギリシャのミコノス島にて

3か月の有給休暇を使って、2人は旅に出かけました。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南米、北米、オセアニア……。このときに訪れた国は20か国にも上りました。
「パリやロサンゼルスなどの大都市から農村まで、いろんな土地に行きました。そんな中、心が動かされたのが田舎の風景だったんです。とくに気に入ったのがスイスとニュージーランド。山、湖、森、そして農村の穏やかな風景が、心に染み込むようでした」

05.jpgボリビアのウユニ塩湖にて

帰国後、もともと田舎好きだった奥さまと話し合い、新しい生活を始められる田舎を探すことに。ある日、ネットに掲載されていた賃貸物件に惹かれ、飯綱町へ内覧にやってきました。そのとき、これから春を迎えようとしている町の景色に心を奪われたそうです。
「この町に住みたい。そう思って地域おこし協力隊について検索してみたんです。そうしたら、まさに僕たちがお茶を飲んでいたアップルミュージアムの学芸員をミッションとした募集が出ていたんです。実は僕、博物館や美術館巡りが好きで学芸員の資格を持っていて、そんな仕事もしてみたいなと思っていたんです。びっくりするくらい自分に合っていて、これはもう移住するしかないと思いました」
実は国費留学生試験に受かり、中国の大学院に進学する権利も持っていた原口さん。海外の大学院で力をつけてから学芸員に挑戦することもできましたが、最終的には飯綱町で学芸員としての一歩を踏み出すことを決断しました。

06.jpgいいづなアップルミュージアム開催されたウクライナの子どもたちの絵画巡回展の様子

移住と同じタイミングで、映像クリエイターとして起業した原口さん。現在は、週4日ミュージアムに勤務し、週1日はまちのPR動画を制作。休日や夜の時間を使い、個人で請け負う案件の撮影や編集を行っているそうです。
「ミュージアムでは、見学に来る方の対応や展示・収蔵品の整理のほか、館長に教わりながらリンゴ並木の栽培も行っています。リンゴの博物館なので、リンゴに詳しくないといけませんからね」
そのほか、知名度アップのためにInstagramでアップルミュージアム公式アカウントを立ち上げて、積極的に情報発信も行っているそう。
さらに、個人の事業として、町役場や企業、町民の方から撮影・編集の受注を受けることが増えてきたそうです。ゆくゆくは北信、県内全域、さらに全国と仕事の範囲を広げてゆきたいそう。YouTubeチャンネル『みつまきの森暮らし』も立ち上げて、田舎暮らしの紹介も行っています。

07.jpg08.jpgミュージアムの庭にある高坂リンゴの木の前で。取材日は8月でしたが、高坂リンゴはすでに色づき始めていました

「今後は自分の強みである映像を活かして、ミュージアムのPR動画も撮りたいと思っています。四季が豊かな町なので、今は季節ごとの風景を撮り貯めている最中です」
世界の絶景を見て歩いた原口さんが優しい視線で切り取る、飯綱町の風景集。その映像作品がどのようなものになるのか、今から楽しみでなりません。


20230908114113_page-0001.jpg
2023年10月7日(土)〜11月5日(日)はSNSで話題となった「葉っぱ切り絵アーティスト」のリトさんによる『リト@葉っぱ切り絵展 葉っぱの小旅行in長野 〜いいづなアップルミュージアム〜』を開催

20230908114023_page-0001.jpg
原口さんが講師を務める『しごとの学校 伝わるPR動画の作り方講座』

いいづなアップルミュージアムのInstagram

YouTube「みつまきの森暮らし」

qrcode.jpg
「ぜひQRコードからチャンネル登録お願いします!」と、原口さん。

カテゴリー

地図