行政の仕事は黒子で、主役はあくまでも地域の皆さん。
地域でいろいろな思いをもつ人をつなげたら。
専門学校で林業を学び、長野県に採用された神谷一成さん。農林業被害が深刻化する野生鳥獣の対策担当となり、県内各地を巡って「信州ジビエ」の基盤づくりに尽力。約10年の期間を置いて今年から再びジビエ振興を担当することとなった。
ゼロから始まったジビエ
野生鳥獣による農林業被害対策の一環で、ジビエ(野生鳥獣の食肉)の活用推進に取り組む長野県。そうしたなかで、ジビエ加工の衛生管理方法をガイドラインとしてまとめるなど、県のジビエ振興を黎明期から支えたのが神谷さんだ。
飯綱町東黒川のりんご農家に育ち、長野県林業大学校に進学。卒業後は長野県に採用され、県内各地の地方事務所(現地域振興局)の勤務を経て、2005年、ちょうど県のジビエ振興が始まる時期に本庁勤務となり、林務部の鳥獣対策担当に配属された。
「当時は猟師が捕獲した獲物が、牛や豚のように正規に流通する仕組みがない状況でした。奇しくも食品偽装などが社会的な問題となり、食の安全・安心が叫ばれた時代背景もあり、まずはジビエを衛生的に食肉加工するための基準(ガイドライン)づくりからスタートしました」
しかし、当時は全国でもジビエ活用の動きがほぼなかったため、基準づくりは手探りで非常に苦労したという。そのなかで県内各地に足を運び、関係者といろいろな検討をしたことが印象深かったと神谷さん。
「行政は地域の困りごとを解決するのが仕事ですが、結果として地域の皆さんに喜んでもらえればやりがいになりますし、行政だからこそできることと感じています」
地域を支える行政の仕事
こうして2005年から4年間かけて長野県のジビエ振興の基盤づくりに携わり、他部署に異動した神谷さん。今年、約10年ぶりに鳥獣対策担当部署に戻ってきた。
「久しぶりに戻ると、当時はマイナーだったジビエにさまざまな事業者が携わるようになり、JRとタッグを組んだ企画の展開にまで進展していて隔世の感があります」
そうしたなかで、今後は行政支援がなくとも民間ベースで自然と動いていくような流れを目指したいと話す神谷さん。
「そのために大切なのは、やはり人づくり。地域で頑張っている人は必ずいるので、そういう人をうまく掘り起こし、活躍できるステージをお膳立てするのが行政の役割です」
それは、地元、飯綱町でも一緒。
「行政は黒子で、主役はあくまでも地域の皆さん。そういう意味でも、地域でいろいろな思いをもっている人をつなげられればと思って仕事をしています。鳥獣被害対策という点では、中南信地域に比べて飯綱町は鹿や猪は少ないので、今後も被害が増えないよう地域づくりをお手伝いしたいですね」
PROFILE
飯綱町東黒川出身、東御市在住。1968年生まれ。高校卒業後、長野県林業大学校に進学、1989年に林業の技術職員として長野県で採用。松本、飯田などの地方事務所勤務を経て、2005年本庁林務部に配属。「信州ジビエ」の基盤づくりに携わり、その後、本庁環境部自然保護課などを経て2017年より現職。