おいしいシードルを通じて飯綱町の知名度を
高めるような貢献ができたらうれしい。
りんご農家の長男としてシードル造りに乗り出し、シードル普及のために「日本シードルマスター協会」を設立した小野司さん。シードルの理解促進と市場拡大を図り、将来は飯綱町での醸造所の立ち上げも見据えている。
シードルに惹かれ協会設立
りんご農家の長男として育ち、いずれは家業を継ごうと考えつつも、都内でIT関連の仕事をしていた小野さん。しかし、機械相手よりも自然と向き合い、自由に農作物をつくる農業にクリエイティブな魅力を感じ、次第に後継を真剣に考えるようになったという。そして、2005年、父にシードル造りに誘われ、「これはいける」と直感した。
「生食りんごから農家の判別は難しいのですが、自らブランディングやラベルデザインができるシードルは訴求力があると思いました。また、シードルはワインと同じで賞味期限の概念がなく、売れ残りの廃棄の心配がないのも魅力でした」
こうして、ワイナリーで委託醸造を開始。販路開拓には苦労もしたが、数年前から大手メーカーや青森の農家もシードル業界に参入するように。すると、醸造所の場所やシードルの情報がまとまっておらずソムリエのような人材もいないことに気付き、2015年、知人のソムリエと「日本シードルマスター協会」を設立した。
目指すは醸造所創業
協会で始めた活動のひとつが「シードルコレクション」。全国の生産者や輸入業者がブース出展をするイベントで、2016年8月に第1回を都内で開催した。
「来場者にはシードルの多様性や独自性を知って喜んでいただけ、出展者は実際に販売や取引に結びつきました。それぞれの思いがひとつの場所に集約できた手応えを感じ、イベントの盛り上がりはそのまま自分の未来に見えました」
そして、声をかけられた北海道や長野県飯田市でも開催し、好評を博した。そんな小野さんが今目指すのが、飯綱町での醸造所設立だ。
「シードルリー(醸造所)を造れば、りんご農家は委託でシードルを造れます。りんごの消費量が減るなかで、飯綱町がシードルもおいしい町として認識されるよう貢献できたらいいですね」
そのためには農家の意欲や覚悟も必要だが、希望者には少量から醸造できるようにしたいと小野さん。
「必要なのは農家の方の理解です。そこで、この本を通じ、シードル業界の盛り上がりが少しでも伝わったらうれしいですね」
PROFILE
飯綱町倉井出身、神奈川県横浜市在住。1977年生まれ。りんご園「一里山農園」の長男として育ち、高校卒業後半導体メーカーや商社に就職するが、大学に入学して経営やITを学ぶ。卒業後はソフトウェア開発会社やコンサルティングファームに就職。2005年、シードルの委託醸造開始。2008年、中小企業診断士資格取得。その後独立し、2015年4月、日本シードルマスター協会設立。長女の中学入学を踏まえ、近年内に飯綱町帰郷を予定。2017年12月には監修本『シードルの辞典』出版予定。