農業を次の世代が継ぎたくなる
職業にしていきたい。
学生時代のアルバイトで改めて農業の魅力を知り、現在は精力的に生産・流通を進化させている山下一樹さん。県外の農家での修業を通じて地域社会とのつながりの大切さを知り、次世代まで考えた事業展開に取り組んでいる。
りんご農家にとって、畑は生産の場であり生活の場だ。子どもたちはりんごの木の下で遊び、土を舐めながら成長する。山下一樹さんもそうやって育った一人。父・勲夫さんは安心安全なものを消費者に届けたいとの思いから、仲間と農薬や化学肥料を削減した栽培法に着手し「有限会社アップルファームさみず」を立ち上げた。だから、山下家の畑の土もまた安心なのだ。
だが、大学は工学部に進み、農家を継ぐ気は全くなかったという一樹さん。転機は大学院時代に経験したブランド枝豆「黒崎茶豆」の農家でのアルバイトだ。生産者のユニークな人柄や生き生きと働く姿、高収入の経営面にふれ「長男としていずれ実家に戻るなら早いほうがいい」と思い直したという。しかし、両親に相談すると「一回は外の飯を食ってこい」と言われ、取引先企業で1年半勉強。その後、半年かけて先進的な取り組みの農家や農業法人を全国10カ所ほど訪ね、組織づくりや販売、流通等を学んだ。
「農業というのはひとつの経営です。そうした大きなくくりのなかで物事を勉強しないと視野が狭くなってしまうので、さまざまな農家を見て学ぶチャンスは今しかないと思いました。その結果、地域社会を維持するという広い視野をもった農家のほうが面白い取り組みをしていると気付きましたね」
こうして、2008年に帰郷。3年間は生産に専念した。一度、外に出たことで見えてきたのは、良質なりんごが実る恵まれた環境だ。
「この自然条件はつくろうと努力しても到底叶わないもので、とてもありがたいことです。だから、この環境を100%生かした栽培を心がけています」
また、地域の未来を常に考えるようにもなったという。
「給与面など若い人がやる気になる農業にしていかないと、次の世代が育っていきません。それが結果的に、地域の資源である農地や農業用水の維持・管理を難しくするなど、自分たちの首を絞めることになってしまう。だから、みんなが農業をやりやすい環境をつくり、子どもたちが将来なりたい職業に農業が選ばれるようにしていかないと、と思っています」
そのためにも、一樹さんが目指すのは、農業を通して若者の雇用促進を図りつつ、安心して地域で働ける環境づくり。「それが私のミッションだと思っています」と話す一樹さんの言葉はどこまでも力強い。
PROFILE
1982年生まれ。新潟大学工学部大学院修了。2年間をかけて生協の子会社や全国各地の農家で修業。2008年、飯綱町倉井に帰郷し就農。地域の先輩や農業講座等を通じてりんごの栽培方法を学び、生産現場に従事するとともに、(有)アップルファームさみずにおいて営業を担当。2015年、代表取締役社長に。また、家業・(株)山下フルーツ農園の生産担当も兼ね、妻で代表の絵里さんと農園を支える。