町を暮らしやすいように変えていくのは
町民の自分たちしかいないんですよね。
りんご栽培に適した三水の土地を生かし、40年以上前からできるだけ環境に負荷をかけない栽培を実践してきた「山下フルーツ農園」。その農園に嫁ぎ、義父母から仕事を受け継いだ山下絵里さんは、法人の代表として社員と地域を見守っている。
大学時代の同級生でりんご農家の長男・山下一樹さん(P62)との結婚を機に、飯綱町倉井にやってきた山下絵里さん。結婚前は東京のIT企業でSEとして働き、退職して渡仏後、「WWOOF※」制度を活用して有機農家でハーブ関係の仕事をした。
「当時、結婚は意識していなかったんですが、フランスで次の職探しは難しくて。とりあえずビザが切れるから帰って考えようと思ったら、紆余曲折もあって(笑)、結婚が決まったんですよね」
もともと「何事もやってみなければわからない」と考える絵里さんにとって、知らない土地のりんご農家に嫁ぐ不安はなかったという。ただ、仕事は農作業が中心と聞いていたものの、実際はほぼ生産現場に出ることはなかったそうだ。というのも、そこには早期に経営移譲をしたいという義母・和子さんのこんな思いがあった。
「義親も実親も高齢で支えが必要だったし、ちょうど父ちゃん(夫)が引っ張ってきた農業法人(アップルファームさみず)を一樹が継ぐ話が出たので、世代交代のタイミングだと思ったんです。それに、農家の事務の苦労を身をもって知っていたので、早く引き継いで教えようと思ったんですよね」(和子さん)
そこで絵里さんは、結婚翌年には個人事業だった農園を一樹さんと法人化し、代表に就任。SEだった得意のパソコン業務と前向きな性格で、今は営業や経理、出荷作業など「生産以外の何でも屋」として4人の若手社員が働く農園を支えている。そんな絵里さんの目標のひとつが「雇用創出」と「交流」だ。
「飯綱町は働く場所がないから若者は長野市で働き、いずれは市内に移住する人が多いと聞きました。だから、町内での雇用創出のためにも、新しい事業やイベントはどんどん考えていきたいですね」
そのひとつが、山下家の大きな母屋の座敷を生かした喫茶店の営業。実は今春オープン予定で、パンや菓子作りに精通した一樹さんの妹が、農園の果物を使ったメニューを提供する。
「法人の規模拡大も含め、多くの人に自然を身近に感じてもらえる場所として地域の魅力を発信し、雇用を生み出せたらと思っています。ただ、結局、地域を変えていくのは町民の私たちでしかない。そのためにも、面白いことを考えている町内の人とつながっていけたらうれしいですね」
PROFILE
1982年生まれ、新潟県新潟市出身。新潟大学工学部大学院修了。東京のIT企業に勤務。退職後、ワーキングホリデービザで渡仏し、ハーブ関係の有機農家で働いた。2011年帰国、2012年結婚。2013年、(株)山下フルーツ農園代表に就任。2015年1月、長男・宇汰くんを出産。