気持ちよく制作に集中できる飯綱町を拠点に、
妥協しない作品で感動を与えたい。
静かで制作に集中できる環境を探して飯綱町に移住し、工房を構えた木工作家の松木啓直さん。妥協しない制作スタイルで、JR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」をはじめ、全国を股にかけ活躍している。
作品で非日常を表現
2017年に運行を開始し、話題を集めたJR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」。途中の姨捨駅のラウンジの家具と、地元食材の料理を提供するオードブルボックスを制作したのが松木さんだ。ボックスはヤマザクラをくり抜いて作ったが、無垢材は完成後も割れたり反ったりと修理が必要なため、通常の作家はこの方法では手がけない。しかし、松木さんは「ありきたりのものは作りたくない」との思いで、使い手に非日常に触れ、感動してもらうことを考えて制作をした。
「見た目からも感動してもらえることが一番うれしいので、インパクトのある作品を作らせてもらえ、本当によかったと思っています」
妥協しないものづくり
昔からものづくりが好きだった一方、若い頃はプロスノーボーダーを目指していた松木さん。しかし、20代半ばにケガもあって諦め、以前から興味があった家具作りの道を考えるようになった。生業にしていけるか葛藤もあったが、背中を押したのが、その頃に出会い、インテリアコーディネーターを目指し頑張っていた妻の陽子さん(P58)だった。
こうして技術専門学校に通い、卒業後は高山村や新潟県上越市で修業。そして、静かで集中できる環境を探して飯綱町の別荘地にたどり着き、2011年に独立した。
数年後には小布施町で念願の個展を開催。それが縁となり、同町の料亭「鈴花」オーナー・鈴木徳一さんから頼まれたのが、運行開始を控えていたしなの鉄道の観光列車「ろくもん」の重箱の制作だった。同店は「ろくもん」で提供する懐石料理を担当することになっていた。
「大きな仕事に力が入りましたね。頑張って手間がかかる凝ったデザインにしました」
サンプルを「ろくもん」の車両デザイナー・水戸岡鋭治氏に見せると、評価は上々。そして「ろくもん」試乗会にJR関係者が乗っていたことが「四季島」の仕事へとつながった。
「作品として長く残ることを考えると妥協はできません。だから、採算は考えない。今はつらくても先があると思って制作しています」
人との縁に恵まれて今までやってこられたと松木さん。ぶれない信念が次の仕事へとつながっていく。
PROFILE
飯山市出身・飯綱町川上在住、1975年生まれ。プロスノーボーダーを目指し、服飾の専門学校を中退。20代半ばでケガにより挫折し、伊那技術専門学校木工科進学。2003年より高山村の家具工房で修業。工房閉鎖に伴い、2005年長野市の店舗什器メーカーに就職。しかし、無垢材を扱いたい思いで退職。2007年新潟県上越市の家具作家のもとで修業。2011年飯綱町に移住し、独立。今後は日本の伝統技術、木の文化を大切に、海外の仕事も見据えている。