「音楽が流れる会場で、集まった人たちが楽しそうにしているのを見るのは、とても幸せな時間でした」
きらきらとした瞳でそう語ってくれたのは、昨年2022年9月にフェス「GOOD CONNECTION IIZUNA」を霊仙寺湖の芝生広場で開催した藤原奈緒美さんです。お話をうかがったのは、フェスが終わって半年ほど経った昼下がり。会計報告が終わり、藤原さんの生業であるリンゴ農家の仕事も、やっとひと息つけたタイミングでお会いしました。
夫婦そろってスノーボーダーであるお二人は、“私たちは自然で遊ばせてもらっているのだ”というスノーボードの精神を大切にしています。2010年に東京から長野県へ移住し、2018年に飯綱町へ引っ越してきてリンゴ農家に就農。そもそも移住を決めたのは、「仕事をしながら、遊ぶ時間も大切にできる生活がしたかったから」と話します。自然を中心とした考え方はリンゴ栽培にも生かされていて、長野県の「信州の環境にやさしい農産物」認証を取得し、化学肥料と農薬の使用料を削減した減農薬栽培を実行しています。
そんな藤原さんに次なる転機が訪れたのは、2020年のこと。縁あって飯綱町主催のビジネスコンテスト「いいづな事業チャレンジ」に出場、『農薬を減らした果汁用リンゴの生産と、ブリュワリーさんと手を組んだ6次産業型ツーリズム企画』を提案すると、なんとグランプリを受賞してしまいます。そのときのステージで「音楽とリンゴのお酒が楽しめるフェスを飯綱町で開催します!」と宣言したのですが、2年半後には、飯綱東高原霊仙寺湖の芝広場でフェスの開催も成し遂げてしまいました。「自分がひとつアクションを起こしたことで、思いもしなかった出会いがたくさんあり、夢だったフェスまで実現できたんです」。
しかし、すべて簡単にうまくいったわけではありません。発表後には新型コロナウイルスがまん延し、思うような動きがとれない状況に。2022年度になってコロナの流れも少し変わってきたのを感じて、藤原さんはフェスの準備に動き出しますが、初めは何をどうしていいかわからず、ひたすらいろいろな人に相談したと言います。「芝広場は訪れたときから、フェスにピッタリの場所だと思っていたので、まずは飯綱東高原観光開発さんにうかがいました。芝広場を会場にしたいとお話ししたら、協力してくださると快諾してくださったんです」
会場が決まったことで奮起し、地元とのパイプ役として紹介された天野奈津美さんと、事業チャレンジに出場したときから相談に乗ってくれていた鈴木直子さんも加え、3人で実行委員会を編成。協賛のお願いや、協力者探しなどに奔走しました。「子育て中で活動はできないけど、応援するよと言ってくれたママ友がいたり、飯綱町が後援してくださったりと、さまざまな方のご協力と応援があって、なんとか進めることができました」
地元の人たちとのつながりができていったことも、うれしかったことのひとつと藤原さん。なかでも、自身が住む坂上地区の人たちから、「フェスで坂上の神楽を舞わせてほしい」と声をかけてもらったことが感慨深かったそうです。とはいえリンゴ農家である藤原さんにとって、フェスの準備と農家の仕事、子育ての両立は簡単ではなかったはずです。それには、家族の理解と協力が不可欠でした。「主人からは多大な協力をもらいましたね。陰ながら応援してくれました」
2022年9月18日(日)、夢だった飯綱東高原霊仙寺湖の芝広場で、GOOD CONNECTION IIZUNA2022が開催されました。まさに有言実行を成し遂げた記念すべき日。前日までは、雨が降ったらどうしよう、お客さんが来てくれなかったらどうしようと不安な気持ちに押しつぶされそうになっていましたが、当日の朝に霊仙寺湖に虹がかかったのを見て、「この時間を楽しもう!」という前向きな気持ちに切り替えたと藤原さん。「『あああ、私、フェスが実現できたんだ!』と、しみじみ感じながら、その場の空気に浸っていました」。“仲間たちとフェスを楽しみたい”という夢が形になった現実を、全身で味わい尽くしたそうです。
「もう一度、この人としゃべりたいとか、そういう思いを大事にしている」とおっしゃるように、藤原さんという人は、お会いすれば、熱い思いに加え人と人とのお付き合いを大切にする人だということが伝わってきます。さて、気になるのは、第2回GOOD CONNECTIONです。
「第1回は、コンセプトが見えにくいことも指摘されて、いろいろ考えさせられました。集まった人たちが色を付けてくれる、持ち寄りパーティーのようなイメージだったんですよね。でも結果としてそれでよかったと思っています。そうしたことも踏まえて、せっかく生んだんだから、育てていきたいと思っています(笑)。 私が健やかで楽しくないと、やる意味もないし続かない。意識して、人生は楽しみたいですからね。せっかくつながった横糸と縦糸ですから、これからも紡いでいこうと準備しています」