子どもたちに稽古をつけているのは、28歳の山﨑貴弘さん(写真左)です。熱のこもった厳しい指導ですが、練習後に子どもたちと楽しそうに話している姿から、お兄さんのように慕われている雰囲気が伝わってきます。
「毎年、こども獅子の子たちの成長が見られるのがとてもうれしい」と山﨑さん。こども獅子舞の後持ちをやる度に、子どもたちの身長が去年より大きくなっていることに感動するそうです。子どもたちが中学3年生になり獅子舞を卒業となると、「自分の子どもであるかのように感極まっちゃうんですよ」。
山﨑さんは、大人が舞う獅子の先頭を、5年前から任されています。
「そもそもなぜ獅子舞をやっているんですか?」と尋ねると、こんな答えが帰ってきました。
「お祭りって、ワクワクしますよね。楽しいからやってるんです」
正直、意外な答えにビックリしました。
地域のためとか、伝統を続けていかなければならないといった、正義感の入り混じった気持ちでやっているのだろうと、思っていたからです。
提灯の光や、一晩中続くお祭りに毎年ワクワクしていた山﨑さんにとって、獅子舞に加わることは小さいころからの憧れでした。山﨑さんが小学3年生になったとき、「こども獅子にどうか」と打診されたのですが、最初ご両親は断ってしまったのだそう。着物を作ったり、稽古の送り迎えをしなければならなかったりと、ご両親の負担が大きかったのです。しかし、山﨑さんはご両親にお願いし、獅子舞の稽古を始めます。そこから中学3年生まで毎年、こども獅子を踊りきりました。
「一定の姿勢を保たなければならなかったり、厳しい指導であったりと子どもには大変な稽古でしたが、舞ったあとに「よくやったね」と周りの大人から褒められることが嬉しかったです」
お祭りも獅子舞も大好きだった山﨑さんは、こども獅子を卒業してからも、ずっとお祭りに参加していたそうです。「お祭りにはずっと関わっていきたいという思いがありましたね」そしてついに23歳のとき、大人の獅子舞の頭(カシラ)である「一番」を任されることになりました。後ろにつく3人(後持ち)は、順番が入れ替わったりすることもあるのですが、この「一番」は御所之入地区では一人しかなれません。
この地区の獅子舞は「洞入れ(ほらいれ)または剣呑み(けんのみ)」と呼ばれます。野原で悪の象徴である刀を見つけた獅子は、何度もためらいながらも勇気を振り絞り、刀を飲み込みます。自分の身を呈して悪を滅ぼすというストーリー。
お祭り前の1か月間、平日は毎晩繰り返される稽古。普段は会社員の山﨑さんに「仕事を早く終えて稽古に通うのは大変じゃないですか?」と聞いてみました。
「会社で自分が舞っているYoutubeの動画を見せるんです。そうすると上司が『おー、すごいね』と感心してくれるんです。だからすかさず『これの稽古しなきゃいけないんで9月は早く帰ります』と言うと、大体許してくれます。これを上司が変わる度にやっています(笑)」
とにかくお祭りが好き。そして、仲間とワイワイとやる稽古が最高に楽しい。山﨑さんはそれを「いい場」と表現します。
「やりたくないのに、こんなことできないでしょう。お祭りの稽古に来ている人たちは皆、お祭りが、地域の人たちと関わるのが好きなんですよ。そうじゃなければ続けられないですよ」
こんなポジティブな気持ちで奉納される獅子舞は心がこもっていて、きっと神様も喜ぶんだろうなと感じました。
昔は芋川神社に奉納する集落は10地区あったそうですが、今は5地区になってしまいました。この現状に山﨑さんは「休止している地区の獅子献灯の再開を強く望みますが、御所之入地区は例え最後の一地区になったとしても続けていきます」と力強く話してくれました。