2025年3月に掲載した「たった2人の吹奏楽部~存続の危機を乗り越え、未来へつなぐ!」。その後、吹奏楽部はどうなったでしょうか?今回は続きの物語をお届けします。
4月になり、吹奏楽部は地域展開を経て正式に「飯綱吹奏楽団」として活動をスタートすることになりました。体験会をきっかけに新入生が入部!さらに、小学6年生や中学2年生の新しい仲間も加わり、部員は合計16人に増えました。これで、まずは存続の目途が立ちました。
そんな中、トランペット指導者の橋澤宏文さんから「所属しているオーケストラのコンサートが7月に飯綱町であるので、ゲストで出演しませんか?」とお誘いがありました。音もまだ出せない初心者メンバーが、わずか3か月で曲を吹けるようになるのか……。
指導者の方々による猛特訓の末、「ラデツキー行進曲(ヨハン・シュトラウス1世)」が演奏できるようになり、2025年7月5日「第16回飯綱町文化協会きらめきコンサート(演奏:カメラータ・ナガノ、指揮:快楽亭狂志)」の最後のプログラムで見事にデビュー公演を果たしました。オーケストラ楽団の皆様や指揮者の方からも「短期間でよく頑張ったね」とお褒めの言葉をいただきました。
カメラータ・ナガノの皆さまと飯綱吹奏楽団の合同演奏
とはいえ、まだ1曲しかまともに演奏できない飯綱吹奏楽団……。次の演奏は、9月27日(土)飯綱中学校の校祭です。目標曲数は6曲。さっそく練習が始まりました。ちょうどその頃、信濃毎日新聞に「長野市内の吹奏楽部14校が“廃部”へ」(2025年7月6日)という記事が掲載されました。
前回の記事でも触れましたが、吹奏楽部の存続はほかの部活動に比べても高い壁があります。
信濃毎日新聞記事によると、長野市での課題は以下の3つ。
①大音量での練習場所の確保と学校での施設の施錠問題
②学校の先生が関与できなくなると、指導者探しが困難
③楽器の維持費が高額
飯綱吹奏楽団も同様の課題を抱えながら、どのように存続への道を切り開いたのかリポートします。
① 練習場所
現在飯綱吹奏楽団は、講堂と音楽室と会議室を飯綱町教育委員会から使用許可を得て練習場所として利用しています。飯綱中学校は2012年の新校舎建設時、教室がある「教室棟」と体育館や図書室・音楽室などがある「社会開放棟」を切り離して設計・建設されました。社会開放棟は町の管理下にあり、鍵は管理人が保管しているので、教員が施錠しなくても放課後や土日も使用できます。中学校の施設を使えて活動のための移動も少ない、この仕組みは課外活動の強い味方です。
飯綱中学校の社会開放棟の出入口
② 指導者
現在、8人を超える方々が交代で指導してくださっています。その多くは、飯綱中学校吹奏楽部のOBOG。謝礼はガソリン代程度ですが、なぜこれほど多くの方々が力を貸してくださっているのでしょうか。
サックス指導者の中川雅紀さんにお話を伺いました。
「部員が2名となり、また部活動が地域展開する中、伝統ある飯綱中学校吹奏楽部が廃部の危機にあると聞き、少しでもお役に立てればと思い参加させていただきました。私自身がこの年齢まで音楽を続けてこられたのは、やはり楽器が好きで、音楽が楽しいからです。その想いは、指導者の皆さん全員がお持ちだと思います。
また、見守ってくださる保護者の方々の想いも、クラブの維持・継続には欠かせません。大人たちが力を合わせてバックアップする理由は、生徒さんたちに合奏して初めて得られる音楽の素晴らしさをたくさん感じてほしい、そして活動を通じて学年を超えた仲間をつくり財産にしてほしい、と思っているからです。そのためには、地道な基礎練習や苦手なところを克服する努力も大切です。こうしたことも、これから伝えていきたいと思います。音作りの楽しさそして厳しさは、生徒さん自身が感じて、それを後輩へ引き継いで、未来の飯綱吹奏楽団へ発展させてほしいと願っています」
長い歴史の中で数多くの卒業生を送り出してきた吹奏楽部だけに、廃部になるのは避けたいと多くの方が感じていること、そして幸い地元に住んでいるため、自分事として率先して協力したいと思ってくださる方が多いことも、活動を支える大きな力となっています。
また、指導者の有無にかかわらず、活動日には保護者が交代で見守り役を務めています。さらに、公共交通の便が限られているため、夜間や悪天候時、土日の活動には保護者の送迎も欠かせません。こうした指導者と保護者の献身的なサポートがあってこそ、飯綱吹奏楽団の活動は成り立っています。
③ 楽器の維持費
現在、楽器は飯綱中学校から無償で借りており、故障時も学校のリース契約によって修理費の負担は最小限で済みます。しかし、学校にある楽器の中には、本格的な修理やメンテナンスが必要なものや、パーツが不足しているものがあり、現在使えない楽器もあります。さらに、今使っている楽器も古いものが多く、いつ音が出なくなるかわからないという大きな不安を抱えています。さらに、リース期間が終了した場合や、今後部員が増えて楽器が不足した場合の新しい楽器の費用をどうするのかなどが、今後の検討課題です。高額な楽器を扱うこと自体が、吹奏楽部の存続を難しくする大きな壁となっており、飯綱吹奏楽団の将来も決して安泰とはいえないのが現状で不安は尽きません。
それでも、従来の部活動が築いてきた「生徒が気軽に音楽を楽しめる環境」「先輩と後輩が共に一つの作品を作り上げる経験」「努力の成果を実感できる喜び」を大切にし、今後も活動を未来につなぎ、団員一丸となって次の世代へ継承していきたいという思いを持っています。飯綱町の音楽団として町民の皆さまに演奏を届けられるよう、生徒たちは指導者・保護者・学校の協力を得ながら挑戦を続けています。
飯綱吹奏楽団は、こうして存続への第一歩を踏み出せた、恵まれた環境にあるといえます。その環境に感謝しつつ、今日も次の舞台に向けて練習を重ねています。
9月27日(土)の飯綱中学校祭は一般観覧も可能です。会場は体育館、演奏は午前9時25分~9時45分ころを予定しています。飯綱吹奏楽団を応援してくださる方、また将来の入団を考えている小学生の皆さんも、ぜひ足をお運びください。