トップライター眞鍋 知子さんヒツジが飯綱町にムーブメントを起こす! 飯綱町でヒツジをめぐる冒険が始まった

ヒツジが飯綱町にムーブメントを起こす! 飯綱町でヒツジをめぐる冒険が始まった

IMG_3230.jpg

いいいいいいづなマガジンで、ヒツジを飼う女性の記事(「飯綱町にニュージーランドをつくりたい!ヒツジを愛する女性の壮大な夢」)を紹介したらたくさんの反響があり、さまざまな問い合わせをいただきました。
「国内産の羊肉って希少なんだけど、飯綱産としてブランド化できたらいいね」
「羊毛を紡いで編み物をしているので、原毛を分けてもらえますか」
「飯綱でも耕作放棄地にヒツジを放牧して、除草と獣害被害対策に役立てたい」
「ヒツジとポニーの観光牧場をやって子どものふれあい体験をしてほしい」
一人の小さなコトが飛び火して、あちこちでおもしろいアイデアが生まれています。

7月には、ヒツジを飼う北澤京子さんと、記事を読んでヒツジに興味を持った有志たちが集まり、第1回ヒツジ会議が開催されました。

IMG_2586.JPG
 
各人が自分のできることやアイデアを出し合い、ヒツジを有効活用できないかと模索。会議に参加した町内在住の野口雅弘さんは、さっそく「自宅前の耕作放棄地にヒツジを連れていって除草してみたい」と、ヒツジを除草のために役立てる実証実験として“プロジェクトH”を実行しました。この取り組みは長野市のタブロイド紙、週刊長野にも取り上げられ、環境に配慮した除草になると注目されています。

IMG_4027.JPG
週刊長野2024年10月12日号より

猟友会に所属する猟師である野口さんは、北澤さんが費用もないなか一人で広大な耕作放棄地の草を刈り、赤字になりながら必死でヒツジたちの面倒をみる姿に半ば呆れながらも「がんばっている人を放っておけなくて」と、ヒツジたちの餌代を稼ぐためと北澤さんを説得して、食肉加工や毛皮のムートン加工に出すことを提案。さらに、趣味の登山で知り合った、先進的な取り組みを行う大町市の山小屋にかけ合い、提供する食事のメニューに採用してもらうことも実現しました。
「北澤さんが大事に愛情込めて育てているヒツジだから、感謝して美味しくきちんとした対価でいただいてほしい。そのためには、北澤さんもしっかり管理して稼いでいく必要がある。双方によい取り組みで、それが飯綱町のためになれば、さらにいいよね」
飯綱町産サフォークがどのように料理となって提供されているのか、気になります。そこで、野口さんと一緒に大町市の湯俣山荘へ行ってきました。

IMG_3157.jpg
 
湯俣山荘は、槍ヶ岳から流れ込む水俣川と三俣蓮華岳から流れ込む湯俣川の合流点にあり、昨年の夏、古い建物を丁寧に修復して約40年ぶりに営業を再開した山小屋です。山小屋といえば、登山の際の休憩や宿泊場所として、ときには避難のために使用する、あくまで質素で必要最低限の設備というイメージがあります。しかし、生まれ変わった湯俣山荘は、いい意味でそのイメージを覆してくれます。入り口を入れば一枚板のバーカウンターが出迎えてくれ、ライトアップされた棚にはウイスキーやジン、カクテル、日本酒の一升瓶のボトルがずらり。フロアにはアウトドアブランド「KEEN」のダイニングテーブルが並び、各種料理やデザートが楽しめます。これが山小屋か?と目を疑うおしゃれな設えは、これまでの固定観念を打ち破る取り組みとして業界内外から注目されています。

IMG_4028.JPG
 
その内容については興味がわいたら調べていただくとして、今回はそんな場所で飯綱町という名前が取り上げられているという事実を確かめるべく、山荘へと向かいました。

IMG_3159.jpg
 
IMG_3337.jpg

IMG_3329.jpg

IMG_3330.jpg

車を降りて、高瀬渓谷を歩くこと4時間余り。ついに湯俣山荘に到着です。築70年の風情を残しつつリノベーションされた建物に見惚れながらチェックイン。1泊2食付きのプランで、夕食はもちろん「3種類のソースで食べる 信州産サフォーク」(通常メニューにプラス1,000円)を選択しました。
このエリアならではの雄大で美しい自然をさまざまに楽しむことができるのも湯俣山荘の醍醐味だと聞き、夕食までの時間はアウトドアを満喫することに。天然記念物の噴湯丘(ふんとうきゅう)など、特徴的な地質を学びながらめぐるジオツアーは、湯俣を訪れたらぜひ参加をおすすめします。そして高瀬川上流は、真水が流れる水俣川と温泉水の湯俣川の出合地点であるため、自分たちで川原を掘って調整すれば、いい湯加減で浸かることができるという川の温泉。ここまで歩いてきたからこそ体験できるアクティビティです。ダイナミックな自然に抱かれていくうちに心も身体もほぐされ、心地よい解放感で満たされていきました(つまり、言い換えればお腹が空いたということです)。

IMG_3212.jpg

IMG_3304.jpg
 
日も暮れて、さあ、お待ちかねの夕食タイムです。トレイには、ボイルした羊肉(サフォーク)と3種のソース、副菜のサラダ、ごはんと、羊肉のゆで汁で作ったスープが並びます。山小屋の定番グルメといえば、カレーやハンバーグですが、おしゃれな食器に盛られた料理は、さながらカフェやレストランのメニューのようです。

IMG_3230.jpg
 
IMG_3231.jpg

この日、山荘に宿泊していた約10名のお客さまの半数以上が羊肉料理を選んでいて、それぞれクラフトビールやカクテル、ワインなどと一緒に楽しまれていました。
食事が始まると、山小屋のスタッフから信州産サフォークについて説明があり、野口さんが紹介されました。
「長野県の北部にある飯綱町をご存じですか? そこで愛情込めて育てられたヒツジを調理してもらいました。あますところなく美味しく召し上がっていただけたらうれしいです」(野口さん)
ヒツジをめぐるエピソードが紹介されると、同席されたお客さまも興味津々。「飯綱町って行ったことないんですけど、ヒツジに会ってみたい」「飯綱町はりんごも名産なんですよね」などと質問してくださる方もいて、和やかで一体感のある夕食に。

信州産サフォーク-5-768x1086.png
 
さて、わくわくしながら口に運んでみると……。柔らかい肉と、骨周りの肉や軟骨のコリコリした食感を味わうことができて美味しい! 噛みしめると骨付き肉ならではの旨味が感じられます。羊肉独特の臭みはボイルしたときの下処理で抑えられていて、3種類のソースとの組み合わせを楽しみながらいただきました。さらに、デザートには手作りのガナッシュ。ワインとともに口に含めば至福の時間が訪れます。山の奥でこれだけの料理が味わえる点も、湯俣山荘が「いつか泊まりたい山小屋」と憧れられる所以なのでしょう。

8D98A6AF-5D9B-4F47-A829-24904C6F86A1-20607-00000CB53BC00540-1024x683.jpg

そんな山小屋のメニューに、“飯綱町産”サフォークが提供されているなんて、誇らしい気持ちになってしまいます。湯俣山荘としても、羊肉料理を選ぶお客さまが増えてきたことから、今後も安定して提供してもらえたらうれしいと前向きなお話でした。

下山して、北澤さんに報告すると、「そうですか~美味しかったですか~。それはそれは良かったです。ヒツジも喜んでいることでしょう……」との返事が。なんとかヒツジ飼いで経営できるようにしていきたいという思いもありながら、複雑な気持ちが見え隠れしてしまうのも否めません。私は自宅でポニーを飼育しているので、自ら進んで馬肉を食べることはありませんが、馬肉が目の前に出されたら、残さずしっかり味わって食べようと思っています。だから、気休めかもしれませんが、北澤さんには「皆さん、北澤さんが愛情込めて育てていることも理解して、きれいに残さず食べてくれていましたよ」と伝えました。ヒツジにも命があり、ヒトはその命をいただく。感謝して食べて、栄養に、そして命にしなければと切に思います。
さて、飯綱町のヒツジをめぐる冒険は、今後どのように展開していくのでしょうか。今後また何かが起こりそうな動きはあるようですので、お楽しみに。進捗がありましたらご報告いたします。

カテゴリー

地図