トップライター三原彩音さん飯綱町の郷土料理“やたら”が文化庁「100年フード」に

飯綱町の郷土料理“やたら”が文化庁「100年フード」に

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飯綱町をはじめとする長野県北部(北信地方)の郷土料理“やたら”が、文化庁の「100年フード」に認定されました。「100年フード」とは、日本の多様な食文化を守ることを目的に、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を継承していくことを目指す文化庁の取り組みです。これまでに、全国各地の自治体のほか、食文化の保存や食育に取り組む市民団体などが「わがまちの郷土食を『100年フード』に!」と手を挙げ、250件が認定されています。長野県内で認定されているのは、飯山市の“謙信ずし(笹ずし)”や佐久市の“矢島凍み豆腐”、茅野市の“献上寒晒しそば”など6件で、飯綱町は、町内で食育推進活動に取り組んでいる「だんどりの会」(黒柳博子会長)と協同で、 “やたら”を文化庁に申請。このたび、認定されました。そして、この「『100年フード』認定」を記念して、2024年8月1日には、認定報告会が開催されました。

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そもそも“やたら”とは…?
 
“やたら”は、長野県北部(北信地方)で夏に食べられている郷土料理で、キュウリやナス、ミョウガ、青唐辛子といった夏野菜と、ダイコンの味噌漬けを細かく刻んで混ぜたものです。青唐辛子は、中野市を中心に長野県北部に昔から伝わる「ボタンコショウ(ボタゴショウ)」を、ナスは食感を楽しめる丸ナスを使うことが多いようです。調味料となるのは、ダイコンの味噌漬けのみ。この素朴さが昔から地域で食されてきた所以かもしれません。

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料理名の語源は、「やたらとたくさんの野菜を使うから」「やたらに刻むから」などと言われています。基本的には、ごはんにのせたり、そうめんや冷ややっこの薬味にしたりして食べます。夏の暑い時期に食欲が減退してしまっても、「“やたら”なら食が進む」と老若男女問わず親しまれており、地元出身の男性によると「夏休みに友だちの家に遊びに行くと、おやつ(副食)としてやたらが出てきた思い出がある」といいます。最近では、「トマトやチーズを加えたらおいしかった」という声があるように、材料や調味料を各家庭でアレンジして食べられています。

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また、飯綱町では、毎年8月に「やたら祭り」が開催されています。町内の各飲食店に“やたら”を使ったオリジナルメニューが登場し、どんぶりやそば、バーガー、ピザ、肉で包んで…など、和・洋・中それぞれにアレンジされたメニューが食べられます。ぜひ、夏の飯綱町を訪れた際には、お好きな“やたら”メニューを探してみてください。

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やたら作りはせんぜ畑から

昔から、「やたらは家の周りを一周すれば手に入るもので作れる」と言われていました。キュウリ、ナス、ミョウガ、青唐辛子、ダイコンは、家の畑=せんぜ畑(家庭菜園)で当たり前に栽培していましたし、味噌漬けの味噌も大豆を栽培するところから手作りでした。それが各家庭の味となったのでしょう。

飯綱町では「だんどりの会」を中心に、“やたら”をはじめとする郷土料理などの食文化を後世に伝える活動が盛んに行われています。“やたら”が長らく親しまれ、受け継がれているのは、飯綱町では今でも「農」のある暮らしが身近だからかもしれません。最近では、農薬や化学肥料を使わない農業や自給自足が注目を集めています。もしかしたら、せんぜ畑から“やたら”を作ることが、持続可能な暮らし方に近づくための第一歩になるのかもしれません。

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