トップライターはっさく堂さん「赤塩焼」を現代に合うようカスタマイズ! 陶芸家トミーさんの挑戦

「赤塩焼」を現代に合うようカスタマイズ! 陶芸家トミーさんの挑戦

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のどかな田園風景の中に立つ、旧小学校を利用した複合施設「いいづなコネクトEAST」。そこから小道を少し進んだところに、現在は廃園となった旧赤塩保育園の建物があります。
そのいちばん奥、昔はプレイルームとして使われていた広い部屋に、2016年に地域おこし協力隊として飯綱町に移住してきた、トミーさんこと冨高俊一さんの陶芸アトリエがありました。

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釉薬のテスト

トミーさんは大阪市出身の自称シティボーイ。大阪の大学に進学し、建築学部内の「クラフト科」を選びました。
「これはいろいろなクラフトができる学科で、図面引きや木工、デザインなど、一通り学びました。その中で陶芸に惹かれるものがあり、もっと陶芸を学びたいと思ったんですよね」
陶芸は、粘土を捏ねたり伸ばしたり、半乾きにして加工するなど、自由度が高い工芸です。トミーさんはそこに面白さを見出しました。
「作品の形をどんどん変えていけたり、乾燥させてもまた粘土に戻したりできるのがすごく楽しくて。それから、釉薬も無限に色があって、さらに調合して違う表現を追求したりできる。それで、気がついたら沼って(深くハマること)ました(笑)」

沼ったことで、少しでも時間があれば制作に没頭する日々。就職活動をする時間すら惜しんで作品をつくっていたため、卒業後しばらくはフリーターをしていたそうです。もちろん、卒業後も陶芸に対する情熱は失っておらず、伊賀焼の窯に就職した同級生にお願いして作業場所を貸してもらい、伊賀市に通って制作を続けていたそうです。

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このあたりの土は、すべて運んできた赤塩焼の土です!

そんなとき、地域おこし協力隊制度について知ったトミーさん。いろいろ調べているうちに、飯綱町で募集していた「赤塩焼啓発活動」をミッションとした協力隊員募集にたどり着きました。
「陶芸の歴史については大学院でかじりましたが、『赤塩焼』というのは初めて耳にしました。しかも、いくら調べても情報は出てこない、ナゾの焼き物。でも当時は『とにかく陶芸がしたい!』と思っていたので、応募を決めました」

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トミーさんの作品

合格し、2016年8月に着任。活動を始める際、トミーさんはまず町内の人に赤塩焼についてヒアリングしました。そのときに聞いた話によると、赤塩焼はもともと「毛野焼(けのやき)」と呼ばれており、窯はいいづなコネクトEASTの校門付近にあったそうです。おそらくは「松代焼」の流れをくんだ焼き物で、幕末から明治時代まで栄えていましたが、100年程前に廃れてしまったとのことでした。
「この焼き物を復活させたいということだったのですが、最初は作業場も窯もなく、どこから始めたらいいか悩みました。そこで、『飯綱町歴史ふれあい館』で土について教えてもらい、粘土づくりから始めることにしたんです」

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最初に導入した小型の焼(電気)窯。現在はこちらのほか、大型の窯も稼働中です

大学や工房では、焼き物の粘土は購入するのが普通で、粘土づくりから始める窯はあまりないそう。それでもトミーさんは、かつて赤塩焼の土を採取していた場所を教えてもらい、土を採ることからスタートしました。
「粘土づくりはね、本当に大変です(笑)。時間、手間、体力、すべて必要なんですよ。ひとりでやっているから、つくれる粘土の量は限られていますし」

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アウトドアでも使える湯呑みやおちょこ

最初は作業場所がなかったため、公民館の駐車場にブルーシートを広げて作業しました。「屋根もなかったです。強いて言えば、青空が屋根」とトミーさんは笑顔で振り返ります。着任から半年ほど経過して、現在の旧保育園を貸してもらえることになり、小さな窯も購入。ようやく、腰を据えて陶芸活動ができる環境となりました。

「楽しかったのは、小学校の子どもたちと一緒に赤塩焼の茶碗をつくる授業です。学校で米づくりも行っているので、自分のつくった赤塩焼の茶碗で、自分たちで育てたお米を食べたそうです。まさに、全部がメイドイン飯綱町ですよね」
また、「いいづなコネクトEAST」の入口や町役場が建て替えられたときのタイルも、トミーさんが町内小学校の子どもたちや保護者と一緒に制作しました。

「協力隊時代には、自分がつくりたいものをつくるというよりも、誰かが赤塩焼で何かをするお手伝いをさせてもらったり、啓発活動をすることに力を入れていました。それも楽しかったし、たくさんの町の人たちと出会えたことも大きかったです」
現在は、啓発活動を続けると同時に、自分の表現したい作品の制作にも取り組んでいるといいます。
「今ハマっているのは苔。陶器の台に苔を合わせています。質感に一体感があって、刺さる人には刺さるんですよ。あと、イベントに出ることも増えてきました」

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苔と陶器を組み合わせた、トミーさんの作品


イベントは、お客さんとやり取りする楽しみも大きいと話します。
「どんな人が自分の作品を買ってくれるか、会って話せるのって、イベントのいちばんの醍醐味。これは売れないだろうと思っていたニッチなデザインの陶芸を気に入って買っていってくれる人がいたり、その作品のどこに惹かれたのか教えてもらえたり。イベントは本当に面白いです」
また、一般の人に向けた陶芸体験も開催しています。飯綱町に来た記念に、赤塩焼の粘土で好きなものをつくることができるので、気になる方はインスタグラムから問い合わせてください。

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赤塩焼で、新しい表現の可能性を追求しています

協力隊を卒業した今も、トミーさんは自分の感性で制作活動を続けています。当時には無かった形や、赤塩の土に合う釉の研究もしているそうです。
「昔の赤塩焼を踏襲するべきところは踏襲しつつ、今の時代にだからこそできることを模索して挑戦していくことも大事だと思っています。だから、例えばさまざまな色を使うなど、自分ができることを活かしつつ、赤塩焼を復活させていけたらと思っています。まだ手探りですけどね」

トミーさんの活動を知りたい方は、以下のインスタグラムをチェック!

陶工房  赤塩のInstagram
tommy's beto studio

 

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