縄文の昔から人々が暮らしていた飯綱町。旧北国街道にほど近くの小高い丘の上に立つ博物館「いいづな歴史ふれあい館」では、このまちの歴史や文化、自然との関わりについて紹介しています。
そんな歴史民俗資料館としての役割が大きい同館ですが、ほかの博物館とはちょっと違った特徴があります。それは、屋根上にそびえる4.5mの天体ドーム。この内部には、イギリス・ジンデン社製350mmの反射望遠鏡が設置されているのです。
望遠鏡で見た月。クレーターもくっきり
歴史ふれあい館では年に20回ほど、一般の人を対象とした星空観望会が計画されています。開催日には7人の天文愛好家たちが「運営協力員」として交代で立ち会い、星について説明してくれます。筆者が2023年に参加した観望会ではたくさんの家族連れが訪れており、小さな子どもたちが順番にファインダーを覗き込み、月のクレーターを見て驚きと喜びの声を上げていました
「この天文台は、博物館の建設計画が始まった当時、旧牟礼村の教育長だった山田邦彦先生の働きかけにより実現しました」
そう話すのは歴史ふれあい館の学芸員、小山丈夫さんです。
いいづな歴史ふれあい館学芸員の小山さん
1990年代、旧牟礼村には小さな歴史民俗資料収蔵室がありましたが、建物の老朽化が進み、村民に見に来てもらえる開放施設ではありませんでした。そこで国の地域総合整備事業債(旧地総債)を利用して博物館をつくり、旧牟礼村の歴史を後世に伝えていこうという計画が立ち上がりました。
「地総債の許可を得るために、地域の活性化に役立つ特色ある施設づくりが求められました。歴史を紹介するだけでは不十分という声もあったそうです。そんなとき、山田先生の提案で『縄文人も現代人と同じく星を見上げていたはず。地球の中の牟礼村として悠久の歴史を実感できるような、村民の皆さんの社会教育の場にしよう』ということになりました」
その案が採択され、1998年「星と歴史のミュージアム」というキャッチフレーズで「むれ歴史ふれあい館」がオープン。2005年の合併で飯綱町が誕生し、同館も「いいづな歴史ふれあい館」となりました。
飯綱町在住の漫画家・小林浩道さんによるイラスト
「それまで、このあたりで常に公開しているの天体観測施設は小川村の小川天文台くらいしかなく、星が見たくてもアクセスが大変でした。でも、ここは気軽に来てもらえる立地です。本物の星空を見ていただくための、天文に親しむ入口的な施設になればいいと思いました」
オープン最初の年、星空観望会の参加者は年間600人以上と、大きな反響がありました。
「本当は、年度初めには20回以上の観望会を計画していましたが、実質的に開催できたのは10回でした。原因は天気で、雨はもちろん曇りの日も星は見えないんですよ。だから梅雨の時期はほぼ開催できませんでした。また、雪がある時期は天体ドームを開けないため、12月から3月前半も観望会はお休みです」
山田先生のほかに、望遠鏡を操作したり、お客さんに天文の魅力を伝えられる常勤スタッフがいなかったため、最初は試行錯誤の連続だったそうです。
「山田先生は村内を奔走してアマチュアの天文愛好家を探し、その方たちにお願いして『運営協力員』となってもらいました。いわば、住民の学芸員のような制度です。村内で5人の方が協力員となってくれて、観望会の日はその方たちが交代で来てくれました。山田先生自身も、お元気なうちは観望会の日には、ほぼ毎回いらっしゃいました」
協力員のみなさん。望遠鏡のほか、ベランダでの観望もできます
運営協力員発足から26年が経過しますが、最初の5人のうち4人は現在もスタッフを努めており、もう1人も息子さんが代替わりしてくれました。
「皆さん、四半世紀も続けてくださって、本当に頭が下がります」と、小山さん。新しいメンバーも加わり、現在は7人ほどで運営しているそうです。そんな努力の甲斐あって、歴史ふれあい館の星空観望会は、町内のみならず長野市や中野市、須坂市など、周辺自治体の人も楽しみにするイベントになっていきました。反射望遠鏡だけでなく、ベランダで小型の望遠鏡や双眼鏡を使った観望も行っており、火星大接近など壮大な天文イベントがある日には、身動きがとれなくなるくらいたくさんの人が来ることもあったそう。毎回遠方から電車で通うほど星好きな参加者もいたそうです。
また、山田先生から太陽を観望するためのフィルター付き特殊望遠鏡が寄贈されたことで、太陽観望会も開催されるようになりました。こちらはGW中の日中に開催されるレアなイベントです。
コロナ禍による1年間の完全休止を経て、2023年は予約制で、開催回数や人数、観望時間など制限を設けて開催された星空観望会。今年は予約なしで、以前のような定期的な開催を目指しているそうです。
「気軽に利用してもらえるのがこの施設のいいところ。春の大三角や夏の大三角、秋の四辺形など、季節によって見える星は移り変わります。それに気付くと『地球は動いているんだ』ということが実感できます。天体は非日常的なようでいて、日常に深く関わりがあることがわかるんです」
山田先生はお亡くなりになりましたが、先生が実現させた星空観望会は、たくさんの人に驚きと感動、そして地球という惑星で生きているという気付きを与え続けています。
山田先生寄贈の隕石。アフリカの砂漠に落ちたもので、触れることができます
※星空観望会は雨や曇りの場合は中止となります。空模様が不順なときは事前に電話で確認を(実施可否は当日18時までに決定)。星空観望会の参加費は無料です。
※いいづな歴史ふれあい館では、星空観望会参加者に天文の魅力を伝えられる「運営協力員」を募集中です。お気軽にお問い合わせください。
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いいづな歴史ふれあい館
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