トップライター三原彩音さん町民会館横の謎の建物内部に潜入してみたら町の遺物を守る女性職人に出会えました

町民会館横の謎の建物内部に潜入してみたら町の遺物を守る女性職人に出会えました

飯綱町民会館横のちょっとした丘の上にひっそりと佇むログハウスのような建物。町民でも、入ったことがある人や中で何をしているか知っているという人は少ないのではないでしょうか。かく言う私も正直、気に留めたことすらありませんでした(関係者の皆さんごめんなさい)。実はこの建物、「資料整理室」と呼ばれる、町の教育委員会・生涯学習係が管理しているれっきとした公共施設なんです。今回は、特別に中に入らせてもらい、ここで働く皆さんに話を聞きました。

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案内してくださったのは、町の教育委員会生涯学習係の埋蔵文化財担当職員である福井優希さん。福井さんによると、ここでは「資料整理室」の名の通り、町内で実施した遺跡の発掘調査で出土した、さまざまな資料を整理する作業が行われています。作業としては、まず、発掘調査で出土した遺物(※遺跡から出土・発見された、過去の文化を示す物品。考古学では、遺跡のうち、生活のための道具・器具や武器・装身具など動産的要素をさす。出典:デジタル大辞泉(小学館))をここに運び込み、洗浄します。乾いたら、どこで見つかったものなのかがあとでわかるように、遺物自体に住所を記入する「注記」といわれる作業をします。小さな欠片から、持ち上げるのに力が要りそうな大きなものまで全てに注記します。思わず「全部に書くんですか⁉」と聞いてしまいましたが、出てきた全ての遺物に、しかも細い筆を使って書くそうです。全部に、です!  さすがに、発掘規模が広大で、とてつもない量の場合は、注記マシーン(!!!)と呼ばれる自動で注記してくれる機械をレンタルするそうですが、それにしてもなんとも地道な作業です……。

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見ているだけで気が遠くなりそうな「注記」

注記を終えた欠片たちは、この道云十年のベテランさんの手によって、接合され、復元されます。発掘調査では全てのパーツがそろうわけではないので、必要に応じて、石膏を使って足りない部分を補ったり、補強したりします。そして、完成品を年代や種類、系統などによって「分類」します。この分類でも職員さんとともにベテランさんが活躍します。例えば、縄文土器のなかでも地域性や模様によって、さまざまな系統分けができるそうですが、相当な知識と経験がなければ分類はできません。それでも判別が難しい場合は、専門家の方に来てもらい、見解を仰ぐそうです。

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ベテランさんの技が光る「復元」

分類を終えると、「実測」です。土器の表面に押し当てると、櫛状の竹が土器の形状になって実寸で型取ることができる「マコ(真弧)」という道具や、「キャリパー」という2つの爪を土器に当てて厚みを測定することができる道具などを使って、実測図を描いていきます。

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05.jpgマコ(上)やキャリパー(下)など専用の道具を使って行う「実測」

同時に、魚拓の要領で、専用の墨汁を使って、遺物の姿を写し取り、「拓本」をつくります。やはりここでもベテランさんが登場。もはや相棒といっても過言ではないこれらの実測道具を巧みに操り、忠実にその姿を紙上に再現していきます。

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忠実に再現された「実測図」

ここまでの作業を積み重ねてやっと、発掘調査の報告書の作成に進むことができます。これだけ丁寧に、厳密に資料の整理を行うのには、理由があります。福井さんによると、考古学的には、遺跡は現状保存が原則で、発掘すると「その当時の姿は失われる」と考えるそうです。だからこそ、報告書にできる限り忠実にまとめて、残すことが求められるそうです。
現在、資料整理室では、5人の女性が働いていますが、このうち3人がベテランさんで、2人の若手さんにノウハウや技術を引き継ぐことも大切な仕事になっています。

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発掘調査で使う道具の数々

また5人は、資料整理作業の前段階である発掘調査も行います。調査は意外にも「泥と水との戦い」だそうです。乾いた場所で、刷毛なんかを使ってサッサと砂をはらいながら遺物を掘り出しているイメージがあったのですが、町内は特に、ポンプで発掘場所から水を汲み上げるところから始めることもしばしばで、夏は暑さとの戦い、冬は霜や雪との戦いなのだとか。それでも5人は「いろんなものが出てくると楽しい」「どんな性格のものか正体がわかったときはおもしろい」と話してくれただけでなく、「最近、発掘調査ないんですよね~」と腕が鳴って仕方がないと言わんばかりの様子で、皆さんが、楽しみながらお仕事をされているのが印象的でした。
発掘調査や文化財の話題では、歴史的発見!  だとか希少性、価値の高さなどに目が行きがちですが、今回取材させていただいて、町に眠る太古の歴史を文字通り発掘し、現代につなぐロマンあふれる仕事に地道に勤しむ資料整理室の皆さんの奮闘を知ることができました。まさかあの小屋で、静寂の内側に情熱あふれる作業が行われていたとは。飯綱町には、まだまだ掘れば掘るほどおもしろいものが埋もれているようです。

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