星野洋子さん・研二さんご夫妻と愛犬ららちゃん
「今ね、私、やりたかったことができて、とってもしあわせなの」
そう話してくれたのは、長野県飯綱町に移住して2年目となる今年の5月に、「カフェららん」をオープンした星野洋子さん(69)です。
「ららん」という店名は、星野洋子さん・研二さん(63)夫妻の愛犬「ららちゃん」と先代犬の「らんちゃん」の名前からつけたということからわかるように、ご夫妻は大の犬好き。洋子さんは昔から飲食業に携わっていて、いつかは自分のカフェを開くのが夢だったのだとか。
「ワンちゃん連れで出かけると、一緒にくつろげるお店が少なくていつも苦労していました。自分のお店を開くことができたら、ワンちゃんも一緒に楽しめるカフェにしたいなと考えていたんです」(洋子さん)
ワンちゃん連れOKのテラス席
移住前は神奈川県にお住まいだったご夫妻。出身はお二人とも新潟県ということもあり、地元の新潟とお子さんたちが暮らす関東方面にアクセスがよい、北信エリアに絞って移住先を検討していました。そんなとき案内されたのが、現在の家。建築士であるご主人の研二さんは、この家を一目見たときから、「ここなら、私たちの理想のカフェにピッタリ」と思ったそうです。
庭を整備しはじめたころのご自宅。まだお店の玄関はありません。
家がある場所は新潟と長野を結ぶ県道37号(信濃長野線)沿い。長野市内から車で30分程度とアクセスは抜群で、歩いて5分のところには、地元の人や観光客でいつも賑わっている農産物直売所「四季菜」とおそば屋さん「よこ亭」があります。そして、何物にも代えがたいのは、このエリアからの景観です。飯綱町は、すり鉢状の地形をしており、飯縄山のなだらかな裾野にあたるこのあたりは標高600メートル超にあり、町を見晴らすことができるのです。広い視界の遠くに見えるのは、志賀や菅平の山並み。手前には、里山の田んぼやりんご畑が広がり、季節ごとに飯綱町の美しい風景が楽しめる町内でも指折りのナイスビュー。カフェの立地としては、最適といえるのではないでしょうか。
そば処よこ亭からの景色
また、購入した築50年ほどの4DKの平屋には、ほぼ家と同じくらいの広さの土地もついていたため、「ここは駐車場と庭に整備できるな」と頭の中で設計図ができていたという研二さん。「夫婦二人で住むには部屋数も十分なので、いちばん南端の部屋を改装すればいいなと、イメージできたんです」。
駐車スペース
お店へはスロープを上がります
購入後はコツコツと整備して、雑草が伸び放題で荒れていた土地を見事な回遊式の庭に整えました。その腕前は、庭づくりの仕事をしないかとお誘いを受けるほどです。県道に面した土地は、砂利を敷いて駐車スペースに。飛び石をたどってなだらかなスロープを上がっていくと、かわいらしい空色のドアのお店に到着するアプローチになっています。カフェ部分の外壁は、鮮やかな水色に塗装。素敵な庭と相まって、まるで外国の童話に出てくる家のようです。
「じょんのびしてってねー」と空色のドアが迎えてくれます
目を引く水色のお家にわくわくします
建物の中はどんな世界が広がっているのか、ワクワクしながらドアを開けると、目に飛び込んでくるのは白と空色の爽やかな配色。窓からは光が差し込み、気持ちのいい空気が漂っています。広々と開放的なキッチンカウンターは、洋子さんの雰囲気そのままです。
オープンカウンターとベンチコーナー
「最初考えていたのは、ウッド調のイメージだったのだけど、ガラリと変更して、妻の要望で空色にすることにしたんです。木の濃い茶色にしていたら、こんな明るい雰囲気ではなかったよね」(研二さん)
床材もカフェの雰囲気にぴったり
外装も建物の住居部分とはプライバシーが保てるように仕切りを設け、店舗部分の壁は水色に塗って、さりげなくすみ分けられています。水色は落ち着いたかわいらしさと鮮やかさがあって、車を走らせていても、ハッと目に留まります。「お店があるなって目立っていいでしょう。皆さんに、いい色だと褒めてもらえて好評なんです」と洋子さんも満足気です。
もともとあった植木や岩も上手にアレンジして生かしています
道路から目に留まるところに立てられたお店の看板には、かわいらしい2匹のワンちゃんのロゴマークが描かれていますが、これはもちろん、お店の名前にもなっている愛犬たちがモチーフです。
「お気に入りのクッションに描かれているイラストをもとに作ってもらいました。ワンちゃんを連れている方は、庭のテラス席へご案内しています。犬のリードを留めるドッグポールは、木材にカラビナがついているんだけど、主人が作ってくれたんですよ」(洋子さん)
ワンちゃん用の食器も用意してあります
ランチメニューは、チキンカレー、おにぎりセット、五目寿司、チキンの甘酢丼などが日替わりで登場します。ほかにもピザトーストや、そのときの食材で決める洋子さんの気まぐれケーキなど、軽食も楽しめます。なかでも「具材を全部ミキサーにかけて、ルーに溶け込ませてある」というチキンカレーは、野菜とお肉の栄養がたっぷりで大好評なのだとか。
胃にやさしいチキンカレー
のりを自分で巻けるおにぎりセット
鶏の甘酢あんかけ丼は野菜もたっぷり
洋子さんのお姉さんがおしゃれに飾り付けるスイーツ
オープンして、ご近所からの反応はどうだったのでしょうか。
「皆さん、期待して待っていてくださって。このあたりにはお店がなかったので、お店ができてうれしいって。開店のチラシを直売所やお花屋さん、美容院などに置いてもらったら、チラシを見てきました、というお客さんも増えてきて、うれしかったです。夜もやってほしいという声もいただくのですけど、私、6人も孫がいるんですよ(笑)。だから無理しないで続けられたらと思っているんです。初めて自分のお店を持ったので、やりがいを感じています。自分のお店ということは経営者ということ。お店をきちんと開けられるように健康管理もしなくてはいけませんしね」と洋子さん。喜んでもらえるうれしさと、お店を経営する意気込みが伝わってきます。
町内に置いてもらっているお店のチラシ
メニューはもちろん営業形態など、お店のことは自分で決められるのが自営業の醍醐味ですが、その分、責任ものしかかります。「開業前は、保健所、商工会、税務署と、すべて自分で回って書類をつくりました。とても大変でしたけど、体調もいいし、ちょっとスリムになったんですよ(笑)」。洋子さんの表情には、生き生きと明るく、やりたいことを実現させた喜びがあふれています。
「でも、いざ開店となると不安にもなりました。新潟県妙高市にいる姉と姪が手伝ってくれるので、やっぱり心強いですね。とても助かっています」
ご近所の方にも喜んでもらえてうれしいとご夫妻
そんな洋子さんをやさしくサポートする研二さんも、「こっちは飲食業には慣れていないから、疲れちゃったよ」と言いながらも、とても楽しそうです。木柵やステップづくり、庭の整備、内装のDIYもお手の物。筋交いを利用した装飾コーナーのアイデアや飛沫防止のアクリルボードの台座、床材や壁紙などのセレクトも研二さんです。古くても使えるところは残して上手に活用しつつ、お店の雰囲気や使い勝手がよくなるように、さすが建築士ならではの工夫を施しています。営業日の金曜日は仕事ですが、休みの日は、お客さまの駐車場案内や接客なども手伝っています。
アクリルボードの台座にもこだわって手作り
筋交いがちょうどいい飾り棚兼入り口からの目隠しに
仲の良さの秘訣をうかがうと、お二人は再婚同士なのだそう。ケンカばっかりしていますよと言いつつも、「お互いに、自分にない部分を補い合えているかもね。ありがたいなと思っていますよ」と洋子さん。
いつも楽しそうに会話が弾むご夫婦
庭の奥のところには小さい畑をつくり、スナップエンドウ、ルッコラ、トマト、レタス、キュウリと、お店で使える野菜を作っています。庭のジャーマンアイリスやモミノキは、ご近所の方が分けてくださったもの。リンゴの木は、もともと植えられていたものを植え替えました。同じ地区に住む方は、「自分のお店ではないのに、お客さん来てるかなって心配でのぞいてみたりしちゃう」と、カフェができたことを喜んでいました。
野菜作りも始めました
「お店を始めてからは毎日がとても楽しくて、朝起きると、よし、がんばろうって思えるんです。花があると、気分がパッと明るくなるでしょう。少しずつ庭も花でいっぱいにしていきたいし、お料理も季節に合わせていろいろつくりたいし。やりたいことができるって、しあわせです。洋子ばあばより、じょんのび(新潟の方言:のんびり・ゆったりくつろぐ)しに来てね~!」
看板犬のららちゃんに会いに来るお客さまもいらっしゃるとか
洋子さんの口をついて何度も出た「しあわせ」という言葉。自分が夢中になれる好きなことに取り組み、一歩を踏み出したからこそ、自然とこぼれ落ちる言葉なのかもしれません。愛犬ららちゃんは、輝いているご主人をまぶしそうに見つめています。次の週末は、カフェららんへ、じょんのびしに行きま~す!
※撮影時はマスクを外していただきました。
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カフェららん
住 所:長野県上水内郡飯綱町大字川上2246
営業日時:金曜・土曜・日曜日 11:00~16:00
電 話:080-6522-3019
cafe_raran