移住者さんの取材をするときに、必ずする質問のひとつが「どうして田舎暮しを決めたのですか?」。それに対する返答は本当に人それぞれなのですが、取材対象者がシニア世代の方のとき、メインとなる理由のあとに「それと……」と付け足して、こんなふうにおっしゃることがあります。
「孫に『田舎』をつくってあげたかったの。私たちが『田舎のおじいちゃん、おばあちゃん』になって、田舎の生活を体験させてあげたいなぁって」
飯綱町の農村民泊「アグリキャンパスinイイヅナ」では、都会での暮らししか知らない子どもたちの「田舎」的存在となりうるようなプログラムを実施しています。修学旅行で長野県に来る子どもたちが農家さんに1泊2日でホームステイし、農作業を手伝ったり、収穫を楽しんだり、一緒に食事をつくったりして過ごします。コロナ禍で現在の受け入れは減っていますが、2019年には主に首都圏の中学や高校計13校約500人を受け入れるなど、学校からも注目されているプログラムでした。
「農村民泊は、もともとは長野市芋井で行われていました。平成26年に、受け入れ農家が足りないのでぜひ飯綱町でもやってほしいといわれ、こちらでスタートしたんですよ」
そう話すのは、飯綱町農村民泊受入の会の廣田裕二さん。
都会の子どもたちが、ありのままの農家さんの暮らしを体験することで、地元の人々と交流したり、食や農業への理解を深めたりするのがそのねらい。春は土づくりや種まき、初夏はリンゴの花摘みや摘果、夏から秋にかけては草取りや収穫など、受け入れ農家さんに教えてもらいながら、子どもたちは季節の農作業を体験。収穫物がある時期には、とれたての新鮮な野菜や果物をみんなで調理して、食卓を囲みます。感想を聞いてみると、「野菜は嫌いだったけど、食べてみたらとってもおいしくてびっくりした」「お米がすごくおいしい」と話す子が多いそうです。
「帰りのバスに乗るときに『帰りたくない』と言って泣き出す子もいます。たった1泊の滞在ではありますが、それだけインパクトの大きな体験をしてもらえるのかもしれませんね」と、廣田さんは話します。
1家庭の受け入れは平均3〜4人。子どもたちの滞在は、農家さんにとっても非日常です。
「送迎もあるので、受け入れ側の農家さんの仕事は増えてしまいますが、それでも子どもたちが来るのを楽しみにしている方が多いです。『緊張感があって大変だけど、子どもがくると元気がもらえる』『普段は夫婦で黙々とやっている農作業も、大勢でやると楽しくなる』、それから『いつもやってる仕事を人に教えることで、自分でも技術の再確認になっていい』と話す農家さんもいます」
学校側との交流は修学旅行後も続き、コロナ禍の前までは、学校の文化祭に招待されて飯綱町リンゴ販売を行ったり、卒業式に出席したりもしていたそうです。また、子どもたちの父兄が飯綱町の農作物を取り寄せてくれたり、卒業旅行で町に再訪してくれたりもしたそう。
「卒業式に出席したとき、受け入れ農家と生徒さんが再開して、農家の人が『また遊びに来てよ』って言ったら『卒業旅行で行きます!』と(笑)。そして本当に、親御さんと友だち何人かで来てくれました」
去年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、農村民泊としての受け入れはしませんでしたが、コロナ前までずっと来てくれていた東京の高校が、地域で何ができるのかワークショップを実践。事前学習を経てまちを訪れ、地域の課題について調査し、その解決法を話し合ってまとめました。
「発表を聞いていると、こちらがハッとするような提案がいくつも出てきました。飯綱町のために何ができるかを考えてくれて、今度はこちらもその気持ちに応えていかなければならないと思いましたね」と、廣田さんは話します。今後は、町内に新しく登場した加工所の活用方法など、現地からも積極的に提案を求めていきたいそうです。
農村の生活を知り、地域の良さを感じ、農作物のおいしさに感動する農村民泊。学校とまち、子どもたちと農家さんが交流を深めることで、1泊2日のステイから、大きな地域活性化の流れをつくっていけるかもしれません。
「ひとりでも多くの子どもに、農村の生活を体験してもらい、そこから人生観を学んでほしいと思っています。学校でこのようなプログラムがない場合、アグリビレッジを通して農村民泊体験を申し込むこともできます。また、社会人向けに民泊をしながらリモートワークと農業体験ができるプランも構想中です。『田舎で農作業を手伝いながら少しゆっくりしようかな』と思っている人は、ぜひお問い合わせください」
廣田さんによると、町内で農村民泊を受け入れてくれる農家さんも募集中。興味がある人は飯綱町ふるさと振興公社内「飯綱町農村民泊受入の会」までお気軽にお問い合わせを。
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飯綱町農家民泊受入の会
長野県上水内郡飯綱町大字柳里628-1 飯綱町ふるさと振興公社
026-253-5153