飯綱剣道教室の少年少女剣士にとって、2020年度は厳しい1年となりました。躍進が期待されていたにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、試合が次々と中止に。さらに稽古までもが中断となり、すっかり目標を見失ってしまった時期がありました。それでも、武道ならではの「心の稽古」を経て、今は次なる躍進に向けて日々修練しています。
ヤアー、トーッ、メン!
2021年の厳冬期。飯綱中学校体育館の武道場に大きな声が響き渡りました。稽古をしていたのは、飯綱町スポーツ少年団のクラブでもある飯綱剣道教室の子どもたち。保護者や指導者もまじり、迫力いっぱいで立合いにのぞみました。
サッカーや野球といった、グラウンドで競技をする西洋由来のスポーツとは違い、剣道は日本に受け継がれてきた武道。身なりや礼儀を重んじているためか、稽古中は凛とした空気が漂います。小さな子や女の子が大人に向かっていく勇姿も見ることでき、保護者も心を一つにして稽古を見守ります。
現在は、小学生を中心に20人余のメンバーがいますが、10年前はもっと小規模でした。指導者たちは「みんなで楽しくやろう」と、メンバーを勧誘し、一人ひとりの成長を願いながら、チーム全体の力の底上げをはかったそうです。そのかいあって、子どもの力を引き出す指導方法ができあがり、町外からの加入者も増えました。
小学生の長野県選抜北信選考会を5人が通過し、勢いづいていた矢先のコロナ禍。指導者の一人で古町に住む丸山英樹さんは「子どもたちの躍進が著しく、このところ大会では“飯綱旋風”を巻き起こしていました。さらに上位の選考会を目標とし、正にこれから、という時期だったのですが……」と当時を振り返ります。
試合によるクラスターが心配された春から初夏にかけては、大会や錬成会をはじめ、対人稽古もできなくなりました。教室では全日本剣道連盟のガイドラインに従い、2020年6月上旬に稽古を再開。お盆前には通常メニューに戻りましたが、面の下にマスクをつける対策も必要になり、息苦しさはもちろんのこと、精神的にも辛い日々だったといいます。
保護者からは、「素振りをする回数が減った」「本当に子どもが落ち込んでしまってどうしよう」などといった声も上がりました。そこで、「剣道の究極の境地は禅の境地と同じである」という「剣禅一如」の教えから、夏の終りに倉井の松雲寺で座禅体験を行うことに。「子どもたちに、人生の一大事をどうとらえるかを学んでほしい」との思いで実施したそうです。
また、教室内で紅白戦を開催し、自分たちの剣道を徹底的に見つめ直しました。秋ごろには、合同稽古の話も出始め、少しずつペースが戻ってきました。
剣道は「剣の理法の修練による人間形成の道」とされています。飯綱剣道教室の指導者も稽古後、「生涯剣道。みんなずっと剣道を続けてください」と語りかけます。剣の道では、このコロナ禍も人間形成のときととらえることもできます。
試合がない中にも、励みになることがありました。2021年2月に三水B&G海洋センターで行われた昇級審査会です。当日は全員が受審者ではなかったものの、久しぶりに緊張感あふれる場面となりました。
1級を取り終えている子は「審査会は、心臓がドキドキして緊張するもの」と話し、この日は友だちの応援や運営の手伝いです。会場では受審者を励まし、緊張を和らげていました。受審者は悔いの残らないよう、大きな声を出して審査会にのぞみました。
結果発表後、6年生の一人は「今年度は試合がなくて残念だった。今日は級を取れてうれしかったけど、満足ってわけではないです」と複雑な思いを話してくれました。
コロナ禍であらゆる活動や試合が中止になり、悔しい思いをした1年。この経験を忘れず、どんなところでも困難な状況に立ち向かう強さを、いいづなっ子が身につけてくれることを期待します。
【メモ】飯綱剣道教室は小学生を中心に、その保護者らもまじえて木曜日夜と土曜日夕方に稽古をしています。新しい部員を募集中です。問い合わせは丸山さん(電話090・7173・5948)までお願いします。