小中学校が完全週休2日制になったころ―――。
「子どもたちを外に連れ出して地域探検をしてみたい」との声が、飯綱町内で上がりました。仲間たちは相談の末、まっさらな白地図(はくちず)を広げて活動を開始。飯縄山を望む白い大地を歩き始めました。まずは自分たちが探検してみよう―――と。
それが今も続く「白地図(しろちず)をぬろう会」の活動のはじまりです。2010年に1冊目のガイドブックを、そして10年後の今年、2020年に続編を刊行しました。地質や郷土史の専門家の解説を交えた文章と手描きの地図で、飯縄山麓のあまり知られていない名所や自然や文化に触れた2冊は、町内外で高く評価されています。
初のガイドブック「白地図を夢色に」では、髻山や芋川用水、高坂りんご、山城跡など、20カ所にわたる「地域の宝もの」をメーンに紹介。町内外の人たちや地域の小学4年生以上の全児童・生徒に配り好評だったため、徐々に続編刊行への期待が高まりました。
読みやすかった1冊目の構成をほぼ変えず、2020年、「続・白地図を夢色に」の刊行に至ります。続編では、町内小学校の「探検自然クラブ」でガイドブックが活用されていることや、新しいスポットだけでなく、探検・調査を重ねた飯縄山の自然や山城、赤塩焼レンガと鉄道・用水の縁、小説家の田山花袋の足跡などを紹介しています。各章のはじめに、メンバーの詠んだ短歌や俳句を添える工夫もしました。
2冊とも、地図は会長の吉田徳房さんが描きました。縮尺と距離、所要時間にこだわるものではなく、イラストも交えた昔の「絵図」のようです。実際に吉田さんが歩いて心に残ったことを記してあるため、本を片手に歩く「さすらい人」にはぴったりといえます。
なかでも充実しているのは、町の山岳会が開拓した飯縄山の登山ルート「原田新道」の記述や周辺地図です。1冊目では、標高1400~1500メートル付近にあるブナおよそ20本の調査などを報告。ブナは長い時間をかけて安定した群落になる「極相林」をつくる樹種なので、飯縄山の森の遷移を考える意味でも価値が高い、と位置付けられていました。
さらに続編では、このブナ林の近くに「まぼろしの滝」があるとし、残雪期が観察に適していること、雪山に慣れた人と一緒でないと危険なことなどが説明されています。また、いいづなリゾートスキー場ゲレンデ近くに、ユキツバキの見事な群生地があることも紹介しました。
そんな険しい探検をする一方で、ふだん通り過ぎてしまいがちな町内の道標をも見逃しません。また、メンバーたちは道中、季節によっては、山菜の天ぷらやきのこ汁を味わう「道草をくう」こともあり、のんびりした里山歩きの楽しさも伝えています。
また、「飯綱町の奥座敷」と1冊目で表現した芋川日向地区については、続編で日向天満宮に残る「湯立て神事」を取り上げました。北信濃ではほとんど行われていない珍しい神事ということで、続編掲載後に新聞に紹介されるなど注目されました。
生活を便利にしてくれるAI(人工知能)がどんなに進化したとしても、あくまでも人間の身体は「デジタル」ではなく「アナログ」な存在。雄大な景色や美しい花を目にすると、写真や動画ではなく実物を見てみたい、と感じる気持ちがわいてきます。まさに2冊の「白地図」は、そんな人間の知的好奇心を「参加型」で満たしてくれます。
メンバーは「ふるさと飯綱町は、いくら汲んでも宝がわいてくる不思議な井戸」として、そのわくわく感を町民にも感じてほしいと願っています。
続編には、種まきの時季を教えてくれるという「雪形」や草花の観察ができる時季も紹介されています。吉田さんは「昔の人は『春の早い年は遅霜に気を付けて』などと言っていましたが、本当にそうだと感じます。読んだ方に、自然を見る力を育ててほしい」と語ります。編集長の富樫館長も「これを見て歩いて、自分の目と足で確かめてほしいですね」と話しています。
続編は99ページ。長野県地域発元気づくり支援金を活用し4000冊作りました。在庫があるうちは、町の博物館のいいづな歴史ふれあい館で、希望者に無料で配布しています。
いいづな歴史ふれあい館
長野県上水内郡飯綱町大字牟礼1188-1
電話 026-253-6646
休館日 月曜(祝日の場合は翌日)、祝祭日の翌日、年末年始
開館時間 午前9時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料 一般300円、小中学生150円
※町内在住者は無料