東京と金沢のちょうど中間地点に位置する飯綱町を、北陸と関東の両側から盛り上げていこうと2018年に立ち上がった「千葉工業大学×金沢工業大学 いいづな町・地域再生プロジェクト」。千葉工業大学と金沢工業大学、そして金沢R不動産が協働し、飯綱町の地域再生のため、約2年間にわたってさまざまなまちづくり活動が展開されました。その成果や感想、そこから生まれた考えなどを、2019年12月14日(土)に、学生たちが町民会館「元気の館」で町民に向けて公開発表しました。
この2年間のプロジェクトに関わり、実際に町を訪れて活動をした学生は、千葉工業大学からはのべ22名、金沢工業大学からは29名。今回はそのうち8名の学生・院生がプロジェクターを使ってプレゼンテーションを行いました。
まず発表されたのは、2年間の活動報告です。1〜2カ月に1回、町を訪れていた学生たちは、移住体験住宅に宿泊してさまざまな活動を展開。1年目は、いいづなアップルミュージアムやいいづな歴史ふれあい館で町の歴史文化や特産物について学んだほか、別荘地やスキー場、サンクゼールや閉校になった2校の小学校校舎など、町を代表する観光資源の現地リサーチを経て、地域住民と学生で町の魅力や未来のあり方について、意見交換をした様子が発表されました。
10月には、旧牟礼西小学校がある高岡地区の秋祭り「高岡神社秋の例大祭」に参加。学生が8地区に分かれ、地域住民と神楽を引いたり太鼓を叩いたりしたことで、町民との関係がより密接になったと感じたそうです。
そして、現地リサーチを通じて町内にツリーハウスが点在していることがわかり、それが町の魅力になるのではないかとの考えから、町内にツリーハウスを制作するプロジェクトが立ち上がりました。
2年目となる今年度は両大学ともにメンバーが大幅に入れ替わり、新メンバーでスタート。牟礼駅前通りの塾や旅館、町内に点在する古民家と蔵、空き別荘、地域おこし協力隊員が栽培しているいちご農園など、前年度とは異なる町の空間資源も見学しました。
なお、千葉工業大学の田島則行先生いわく、「空間資源」とは、近年、建築分野で使われるようになってきた言葉だそう。空き家というと、使い道のない家といったネガティブなイメージですが、空間資源は使いようによって使い道が広がる“資源”という考え方が根本にあるのだとか。
その考えに基づき、ツリーハウスを自然と組み合わせるとさらに豊かな空間資源になるとの発想から始まったのが、先述のツリーハウス制作プロジェクトです。
今年度は学生たちが実際に自分の手を動かして汗をかく機会を増やそうとの考えで、ツリーハウス制作プロジェクトも具体化し、町内の大工による技術指導のもと、オーナーの賛同を得た古民家カフェの敷地に学生がツリーハウス制作を進めていきました。
このツリーハウスは茶室をイメージした「おもてなしのツリーハウス」なのだとか。計画地の雑木林に囲まれた環境と斜面を生かし、2本の杉の木を使って趣の異なる2棟を作り、どちらも往来できる計画です。現在はデッキ部分までが完成。合わせてアプローチ空間も計画しており、制作は来年度へと続く予定です。
また、2年目の祭りの参加は「高岡神社秋の例大祭」に加え、牟礼駅前の「岩崎観音夏祭り」にも参加。町民との関係がより深まったようです。
「飯綱町は東京からも金沢からも新幹線でアクセスしやすく、長野市街地から車で30分ほどなのに自然豊かで四季の変化が明確であり、生物も多様。農業も特徴的で、農作物の栽培と暮らしが近く、それが町や集落の風景や彩りとなっているところも魅力です」
学生たちは2年間の活動を通じ、町の魅力をこのように伝えました。また、町内に多く残る古民家も魅力的で、いくつもの古民家はカフェや移住体験住宅に生まれ変わっていることから、町内で使われていない古民家や蔵を改修し、活用することで町の魅力がさらに高まる可能性があると話しました。
続いて、町の活性化をしていくうえで参考になりそうな、全国の里山の活用方法や閉校した学校校舎の活用、空き家・古民家再生プロジェクトなど、成功事例が発表されました。
そのうえで、飯綱町にある古民家や蔵の数、利用状況、壁や屋根の素材、色の調査についても報告。結果、古民家は218棟(うち45棟は外観から空き家と判断)あり、特に赤塩地区が多いことがわかりました。蔵は197棟で、改修して利用されているものも多く、町内全域に点在していることから「ほかの地域では見られない古民家や蔵をもっと利用し、まちづくりの可能性を広げられたら」との提案がされました。
なお、ツリーハウスも現時点で町内に7~8棟ありますが、今後、古民家や別荘、小学校、キャンプ場、住宅など現有資源と組み合わせてさらに増やしていくことで、町のさらなる魅力として提案できるのではないか、との考えも報告されました。
金沢工業大学の宮下智裕先生は、「空間資源の組み合わせ次第で、まだまだ面白いことができそうだと感じている」と話します。特に別荘エリアに関しては、ツリーハウス制作と同時に、学生たちは空き別荘の修復なども行っていましたが、別荘ブームが落ちついた今、そうした新しい価値の創出が必要であり、関係人口を生み出すアイデアを今回のプロジェクトを広げながら考えていけないかと思案しているそう。そうしたなかで、学生との活動を通じて見直したものが、DIYだと話します。
「DIYには、机や椅子など必要なものを作ることが目的の『目的成功型』と、作る過程や修復している行為自体を楽しむ『過程重視型』があり、『過程重視型』のDIYと飯綱町の自然環境を組み合わせて学びの場や豊かな時間を過ごせるとすると、それを目的に集まる人が出てくるのではないかと思っています」
たとえば、企業や団体の研修に別荘のDIYを取り入れれば、参加者全員で直すことで達成感やチームワークが得られ、帰属意識も生まれます。そして、定期的にその場を訪れるようになり、観光地に来ることとは異なる面白さも得られるのではないかと推測します。
加えてDIYのノウハウも得られ、建築を学ぶ学生に対しては改修アイデアを募る学生コンペを開催することで、全国から学生がやってくる場にもなり得ると可能性を感じているのだとか。さらに、改修を趣味とするようなターゲット層にも響くのではないかと考え、今後はその可能性を探っていきたいと話します。
こうしたアイデアの発表を経て、最後に田島先生が「すり鉢状の地形で、どこにいても町の反対側の傾斜が見える飯綱町には、関東平野にはない美しさがあり、来るたびに新鮮な風景にハッとしました。そうした魅力ある町に、先人たちが作った空間資源がたっぷりあります。それをいかに生かすかが町の今後の課題であり、私たちはこれからも実体験という参加型のまちづくりで町を活性化していくプロジェクトに関わっていきたいと考えています」と締めくくりました。
飯綱町企画課の徳永課長は「全国の空き家などの活用事例に加え、町内の古民家や蔵に特化した調査はこれまで行ったことがなく、参考になりました。また、町の魅力については今後の景観計画の参考になり、ツリーハウスと別荘の組み合わせは新たな魅力の創出と関係人口の増加につながると感じました。さらに『過程重視型』のDIYも興味深く、有意義な発表でした」と、約1時間半にわたる発表会の感想と感謝を伝えました。
発表会後の意見交換会(懇親会)では、町民が学生たちに対してさまざまな感想や意見を伝え、にぎわっていました。
学生たちに、距離が離れたふたつの大学の学生が交わる苦労はなかったかと尋ねると、スカイプなどのテレビ会議で頻繁に話し合っていたので大きな不便はなかったそう。また、田島先生は「来年度は具体的な空き古民家を見つけ、民間企業なども巻き込みながら改修し、10年はこのプロジェクトを続けていきたい」とこれからの抱負を語っていました。