飯綱町上村区で、青汁用の野菜として知られる「ケール」栽培が盛んになっています。仕掛け人は、長野市の運送会社会長の平山豊文さん。ケールとは、欧米で多く育てられているアブラナ科の野菜で、平山さんは「ここ上村区は標高もあり適地。ケールのように、ニーズがある野菜はほかにも必ずある。空いている農地を活用し、そのような野菜を栽培していければ」と話し、中山間地域の農業に新たな価値を見出しています。
平山さんは1951年生まれで青森県出身。長野市を拠点とし、若いころは霊仙寺湖の堤防工事に携わった経験もあるため、飯綱町にも縁を感じているそうです。2019年10月の台風19号による大雨災害時には、霊仙寺湖のボートを千曲川沿いの被災地に自社の車両で運びました。
平山さんが上村区にある4ヘクタールの畑のハウス6棟で育てているケール新品種「ハイパール」は、長野県とヤクルトヘルスフーズ(株)が共同で育成した新品種で、注目されている機能性成分「グルコラファニン」を多く含み、青臭さが少ないのが特徴で、粉末タイプの青汁商品の原料になっています。長野県園芸畜産課によりますと、県内で栽培されているハイパールの今年度の作付面積は447アール(4.47ヘクタール)で、本格的な作付けが始まった5年前の60アール(0.6ヘクタール)から、大きく伸びています。
2011年に品種登録されたハイパールの試験栽培を全農長野県本部から頼まれた平山さんは、上村区の畑で適した土壌や育て方などを研究してきました。無農薬・無化学肥料が基準なため、防虫対策や連作障害も課題でした。その後、本格栽培に移り、長野市の飯綱高原にあるハウスとあわせて出荷をし、昨年実績は全出荷量の2割、37トンを担っています。
毎年雪が降るころまで続け、出荷日には、上村区の畑に平山さんが経営する会社の社員らが集まり、70センチほどの葉を、虫を取り除きながら丁寧に収穫します。下の葉の収穫を終えて茎が現れた腰ほどの高さのハイパールは、ぽっかり浮かぶキャベツのようです。
上村区は比較的に虫が多いため、ハウス内に捕虫器を吊るす工夫もしています。この日は大きな鉄製のかごに葉を集め、平山さんが会長を務める運送会社のトラックで千曲市の加工会社まで運びました。
出荷したハイパールを加工会社に運ぶだけでなく、加工会社が絞った汁を、大分県にあるヤクルトヘルスフーズまで運ぶこともあります。平山さんはほかに、野菜のリパックを主とする会社も経営しており、「コールドチェーン(低温に保つ物流方式)はできている」とします。長野市真島町の畑では在日米軍基地向けに、生食用の別の種類のケールも育てており、ケールの仕事も広がりをみせています。
「人とのつながりを大切にし、依頼された仕事は断らない」という平山さん。豊富に浮かぶアイデアで、農業の効率化や循環型の仕事を提案し、実行に移してきました。平山さんの「空いている畑はもったいない」という言葉には、荒廃農地を再生したいという志があります。畜産業を礎としてきた上村区の50アール(0.5ヘクタール)で、ワラビ栽培もしており、さらにそこで雑草を食べながら、「肥料」を還元してくれるヒツジを飼うといったユニークな試みもしています。平山さんは「ヒツジ肉の需要は高い。畜産のノウハウもあり、ヒツジを飼うことで、観光資源にもなり、地域の特産品にすることもできるのでは」と提案します。
平山さんはさらに、長野県の農業に対して、事業を立ち上げたころからお世話になった恩を返ししたい、という気持ちから、野菜を扱う会社の名は「サンキューファーム」にしたんだよ、と少し照れくさそうに教えてくれました。「長野県のブドウやリンゴは、新しい品種への期待が高まっているし、なにより標高差という利点があるから温暖化にも強い土地だと思います。新規就農者も、行政の厚い支援があり、土地が借りやすい『畑付き』、指導できる農家も多い『先生付き』で農業を始められる環境がある。地域の人と打ち解けて頑張ってほしいですね」と飯綱町のこれからの農業への期待を語ってくれました。
【荒廃農地の再生】 長野県によりますと、2014~17年の4年間で、荒廃農地をブドウやソバ畑に変えるなどした解消実績は、都道府県別で1位になりました。背景の一つに企業の参入といった担い手の多様化が進んだことが挙げられています。