飯縄山の山頂から写した、北信濃の山々と緑に囲まれた豊かな田園の風景が、スマートフォンに送られてきました。
これは、赤ちゃんのときから町の山間部・東高原区に暮らし、休みの日に飯縄山に登ることが多い高校生になった長男からの、いつもの「今から下山」の合図。自転車で帰宅後、トレッキングシューズを干しながら、「今日も山はよかった」とつぶやくのですが…。ひとこと言わせて、ここも山の中なのですけど。
私たち家族が住んでいるのは、飯綱町西部、飯縄山にほど近い標高約900メートルの高台にある別荘地です。地元では、「山に住んでいる」と言われています。里や街に住む人たちからは、
「子どもと大自然の中で暮らせるなんてうらやましい」と言われる一方、「不便じゃない?」「危なくないの?」などとも聞かれます。
その答えは、住宅地も山も楽しんでしまえばどちらも同じ-といったところでしょうか。
特に飯綱町の場合、複数の医療機関があり、急なケガや病気でも安心です。さらに鉄道も通っていて長野市の通勤圏であり、運行本数が少ないものの、公共交通機関だけでも買い物に行くことができます。車を持たないお年寄りでも生活しています。
2018年春の学校統合から、山間部や学校から遠い地区に住む小学生にはスクールバスが整備されました。町教育委員会が、危険個所の把握や停留所の位置など、安全な運行に気を付けてくれています。ただ、中学生や高校生なると、スクールバスがないので、どうしても親が送り迎えをせざるを得ないこともあります。
こうした交通の不便さと、さらにはアドベンチャー気分を親子で楽しめるか、が山暮らしのポイントです。
山暮らしがアドベンチャーというのは、街の暮らしと違って、冬の雪の降り具合や、クマやイノシシといった野生動物の出没情報といった自然の動きに、保護者のアンテナが常に高くなること。初夏はウルシによるかぶれやハチ刺されにも注意が必要です。季節ごとの山ならではの特徴を把握できてくると、親も子も最低限の危機管理ができてきます。加えて、親も一緒に自然を楽しもうという気持ちがあれば、一緒に自然に詳しくなります。
子どもたちも、昆虫採集や動物の足跡探しなど、都会では楽しめない自然の中での遊び方を見つけていきます。中学生くらいになると、親に「近道」を教えてくれる子もいますが…車が通れない山道だったりします。
また、大きくなると、広い学区内の友人宅を自転車で行き来するなど、行動範囲がぐっと広がる子もいます。山の子はどうしても、帰路は登りなので、車の後部座席に自転車を積むこともしばしば。大きな自転車は、スキーのように、車の屋根に積む方法もあります。
少し下った集落に住むお年寄りも、「昔は山の中に、湧き水や雪などを目当てに放課後遊びに行った」と、今も昔も変わらない魅力を語ってくれます。
数々の遊びのなかでも、雪国である飯綱町では、冬のスポーツが楽しめるのでオススメです。小さい子はまず、「そり遊び」。最初は子ども同士や木への衝突がないかとハラハラしますが、いつの間にかうまく操縦できるようになります。大きくなると次第に雪に親しみ、大雪さえ待ちわびるようになり、もう少し成長するとスキーやスノーボードも待っています。
危機管理をしっかりして、その家に必要な工夫を重ねながら、親も一緒に自然の中での暮らしを学ぶ-。山間部の家庭はどこも、そんな風に日々過ごしているのだと思います。
いつか子ども自身が「飯綱町で育って良かった」と言ってくれますように、と心の隅で願いながら。
【上村・東高原区】 飯綱町の西部に位置する2地区は、オールシーズンのリゾート地として期待される高原地帯。上村は戦後に入植が始まった開拓地で、畜産業を礎に発展し、高原野菜の栽培が盛んです。東高原は、昭和40年代から開発されてきた別荘地で、定住者も多くいます(牟礼事典から)。