「リアルタイム字幕」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、その名の通り、話者の話す内容を、即時に文字に起こして字幕で表示するものです。
最近はテレビでも使われていますね。
聴覚障がい者や高齢者などのユーザーに対し、情報バリアフリーを推進するために開発されたそうです。
バリアフリー、ユニバーサルデザインの観点を踏まえた「合理的配慮」(障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のこと*1)という考え方が少しずつ広がってきていますよね。今回はその一例と、リアルタイム字幕作成の現場をご紹介します。
7月9日、飯綱町民会館で北信地区人権教育研修会が開かれました。はじめに「みんな違ってみんないい~性の多様性を考える~」という講演がおこなわれ、ステージ横に設けられたモニターにリアルタイム字幕が登場しました。
北信教育事務所生涯学習課の小島さんから、「本日は、手話通訳とリアルタイム音声通訳を行なっています。本日のリアルタイム音声通訳を担当してくださっているのは、パピヨンワーカーズの皆さんです。パピヨンワーカーズは、働く女性を支援する施設「飯綱町ワークセンター」から生まれた在宅ワーカーのグループです。働き方改革、女性躍進が叫ばれる中で、ワークライフバランスを考え、自分らしく生きることを大切にしながら活動を行っているグループです」と紹介がありました。
上の写真のステージ右奥で作業しているのが、パピヨンワーカーズのメンバーです。
写真左端の画面に、字幕が映し出されています。
文字起こしには、UDトークという音声認識アプリが使われています。話者の声をマイクからアプリケーションに取り込み、機械的に文字に変換します。日本語は難しく、まだ音声認識では間違った言葉が出てくるので、パピヨンワーカーズのメンバーが修正をかけて、その情報を字幕に映し出します。
集中力と瞬発力が必要な作業です。
パピヨンワーカーズでは、リアルタイム文字起こしのほか、音声起こしの仕事もしています。その名の通り、テープやCDに記録された音声を文字に起こしていく作業です。
簡単なようで、実はこちらもとても奥の深い世界です。
表記の方法ひとつ取っても、技能が必要です。表記の仕方は、「記者ハンドブック(新聞用字用語集)」(共同通信社刊)を基本にしています。
例を見てみましょう。
×宜しくお願い致します。西林に変わってご説明します。
〇よろしくお願いいたします。ニシバヤシに代わってご説明します。
2つの違いが分かるでしょうか。常用漢字表にない読みは平仮名、補助用言は平仮名、漢字が特定できない場合は片仮名を使います。また、日本語には同音異義語がたくさんあるので、どの漢字を当てるかを適切に判断するスキルも必要となってきます。
そんな細かいところまで気にしなくても……という声も上がりそうですが、誰が書いても同じ基準=表記にゆれがない、というのは、読む側にとって理解しやすいものです。
メンバーの小林由起さんに伺いました。
「リアルタイム字幕は、飯綱町では今回が初めての試みでした。参加してくださった方に音声認識を使った字幕を実際に見ていただくことができ、私たちの活動を知ってもらうとてもよい機会でした。これを機にますます活動の場を広げ、もっとたくさんの人にリアルタイム字幕について(または、パピヨンワーカーズについて?)知っていただければと思います」
今回の講演は、性の多様性がテーマでした。LGBTのカテゴリーにも入らない人がいる、だから「LGBTQ」。虹のように、それぞれの色が調和した社会を目指しましょう。人権保障は合理的配慮、という言葉が印象的な講演でした。
中央のスクリーンに最後に映されたスライドにはLGBTQに代わる、「SOGIE」(性的指向と性同一性・性表現)という言葉。「私たち全員が当事者です。全員が、それぞれの差異を等身大に認められる社会を目指しましょう」と締めくくられました。
情報のバリアフリーが進むように、これまでの要約筆記より低コストのリアルタイム字幕が、多くの現場に取り入れられていくようになったら素敵ですね。
そしてパピヨンワーカーズも、蝶のように羽ばたいて活躍してほしいものです。
ところで、なぜ「パピヨン(フランス語で蝶)」なのでしょう?
地図を広げてみてください。
飯綱町の形が蝶に似ていること、皆さん、ご存じでしたか?
*1 出典:LITALICO仕事ナビ