トップいいいいいいづなマガジン【飯綱町町民講座】鎧塚俊彦さん「スイーツによる地域活性化」
トップいいいいいいづなマガジン【飯綱町町民講座】鎧塚俊彦さん「スイーツによる地域活性化」
トップいいいいいいづなマガジン【飯綱町町民講座】鎧塚俊彦さん「スイーツによる地域活性化」

【飯綱町町民講座】鎧塚俊彦さん「スイーツによる地域活性化」

今年2月に町民会館で開催された飯綱町民講座。世界的に活躍するパティシエで、「おいしい信州ふーど」大使でもある鎧塚俊彦さんが、「スイーツによる地域活性化」をテーマに講演を行いました。

飯綱町は「日本一のりんごの町を目指して」というキャッチコピーを掲げています。農作物の価値をさらに高め農業所得を上げるため、農家が生産(1次産業)するだけではなく、食品加工(2次産業)や流通・販売(3次産業)にも取り組むこと、いわゆる6次産業※化は、とても可能性のある手段なのです。

美味しいだけではない、全く違ったもので勝負する

P1080710(リサイズ).jpg

「パティシエは、世界一幸せな仕事です」と、切り出した鎧塚さん。「ケーキ屋さんに来る人はみんな笑顔ですが、その笑顔の人たちをもっと笑顔にするんです。こんなにいい仕事はありません」

IMG_1796_1.jpg

鎧塚さんは、有田みかんの官能審査(=五感を使って品質を評価する審査方法)委員長を努めています。みかんの糖度などは機械で測定できますが、最終的な品質の判定には、味覚や嗅覚など人間の感覚を用いているのです。しかし、国内におけるみかんの消費量は減少傾向にあるそう。

「昔はお茶の間のこたつの上にみかんが置かれ、家族全員でテレビを見ながら食べていたものでしたが、今はお茶の間がなくなってしまいました。また、みかんを箱買いではなく、ビニール袋詰めの少量でしか買わなくなったことも原因ではないでしょうか」と、鎧塚さんは分析します。

しかし、有田みかんの味は世界でもトップクラス。そこで関係者が考えたのが、販売先を海外に探すことでした。値段は高いですが、やはり味が美味しいと、アジアでも人気を集めているそうです。

「僕は、飯綱の人と話していて感激したことがあるんです。その人は、とても美味しいりんごジュースをつくっていたので、なんでこんなに美味しいりんごジュースをつくるようになったのかを尋ねました。そうしたら、『ウルグアイ・ラウンド(=1986年から1994年にかけて、世界貿易上の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行われた通商交渉のこと)が決まったときに、海外から安い濃縮還元のりんごジュースが入ってくる可能性が高くなった。このままでは自分たちは成り立たなくなってしまう。だったらそれに太刀打ちできる、まったく違うジュースをつくろうと、オリジナルでストレートりんごジュースをつくり出した』そうなのです」

IMG_1798(リサイズ).jpg

味に自信のあるりんごを搾ってつくったジュースは、濃縮果汁還元のジュースとはまったくの別物。もちろん値段も高くなりますが、それだけの金額を払う価値は十分にあります。

「まったく違うもので勝負すれば、『関税なんて取っ払え』と言えます。もし関税がなくなれば、自分たちのクオリティの高いりんごジュースで海外に乗り込んでいけるから。これこそが、僕たちが今、地域活性化でやろうとしていることだと思いました」(鎧塚さん)

「飯綱町をアップルパイの町へ」

P1080705(リサイズ).jpg

6次産業を考えたとき、思いつくのはジュース、ジャム、ケーキ。「確かに、ジュースもジャムも美味しいです。だけどこれらは、誰もが思いつくことです。なので、みんなとは違うことを考えていかなければならないんです」と、鎧塚さん。

ここで、鎧塚さんから飯綱町へ、具体的な提案がありました。

「飯綱町を、アップルパイの町にしてはどうでしょうか。今も、アップルパイを出しているお店はあるでしょう。だけどもっとたくさんの店が、それぞれの個性的なアップルパイを提供し、町単位の名物にするんです」

鎧塚さんのイメージは、いろいろな種類、いろいろな食べ方のアップルパイが楽しめる町です。「この店へ行けば、目の前で焼き上がるできたてアップルパイが食べられる。お土産には、個性的な味わいの、あの店のアップルパイを家族のために買って帰ろう。なかなか会えない友達には、賞味期限の長いこのアップルパイにしよう」。そうすれば、訪れた人が町のいろいろなエリアを回ることにもつながると言います。

「店ごとに個性をつければ、2軒か3軒、アップルパイのはしごをすることもできます。持ち帰りのアップルパイの箱には、ぜひチラシを入れておいてください。お土産をもらった友達が気に入れば、インターネットで注文してくれるでしょう」

しかも、アップルパイはシードルにも合うとのこと。店で飯綱町産シードルと一緒に提供したり、アップルパイとシードルのセットをつくって、おしゃれなギフトにしたり……。アイデアはどんどん膨らみます。

 

もちろん、うまくいくかどうかはわかりません。けれど、「行動しないことには何も起こりません」と、鎧塚さん。やってみて、うまくいかないことが出てきたら、状況に合わせて変えていけばいいのです。

 

ところで、どれくらいの規模がいいのでしょうか?

「最初は、知恵と労力を最大限に活かすことです。ヒットさせるにはある程度のお金が必要になりますが、それは、次の段階でいいと思います。やってみて、これはいける!と思ったら、大きくやればいい。大切なのは、まず動くことなんです」

 

私たちはなぜそれをやるのか。大義名分を共有する

神奈川県小田原市にある「一夜城 Yoroizuka Farm」は、2011年に、耕作放棄地だった2,000坪の土地につくられた、レストランとパティスリーを併設した農園です。ここで鎧塚さんは、柑橘類やブルーベリーを栽培し、採れたての果物を使ったスイーツや料理を提供しています。

「この農園を始めたときもそうでしたが、地元の人とスタッフの人が一つになって『よし、やるぞ!』となれば、半分は成功したようなものです。僕が新しいお店を始めるときに大切にしているのは、なぜそれをやる必要があるのかという大義名分を、みんなと共有すること。上の人間が『やるぞやるぞ』と言っていても、スタッフのやる気がなければ、うまくいきません。地域活性化にも、それが大事だと思います」

IMG_1826(リサイズ).jpg

飯綱町にはりんごという素晴らしい資源があります。その資源を最大限に活用するために、アクションを起こしていくことがとても大事だと、鎧塚さんは教えてくれました。

例えば、お店をやっていない農家さんでも、自宅でアップルパイを焼いてその写真をSNSに載せ、素材としてのりんごの宣伝をすることができます。または、りんごを発送するときに、「アップルパイの町、飯綱・○○農園のオリジナルアップルパイレシピ」を同封するのもいいかもしれませんね。

まずは知恵と労力を駆使して、一人ひとりがアクションを起こしてみる。それが、町のより良い未来を切り開く、いちばんの近道なのかもしれません。

※1次産業×2次産業×3次産業のかけ算で6次産業となる

カテゴリー