
2026年4月、飯綱町の中心部にある本町商店街に、新しいお店がオープンしました。パカーンコーヒーの向かい側、桜屋商店という看板のある場所が、クラフトビールや焼酎、日本酒を中心としたお酒のセレクトショップ「ムレノバ」です。
元商店だった建物をリノベーションした店内には、荒削りで無骨な空気と、おしゃれでくつろげる雰囲気が同居しています。冷蔵ショーケースには国内外のクラフトビールやノンアルコール飲料などが並んでいますが、ここはバーではなく「酒屋さん」。レトロなソファが置かれた店内では、古道具や古物も販売しています。奥の座敷はフリースペースやキッズルームとしても開放されていて、つい長居したくなる居心地のよさです。

店主の岩井敦史さんは、愛知県名古屋市出身。もともと個人事業主として、家具を作ったり内装を手がけたりと、ものづくり系の仕事をしていました。
「コロナ禍が落ち着いてきたころ、中野市で地域おこし協力隊をしていた友人のところに遊びに行ったんです。そのときにいいところだなと思って、二拠点できる場所を北信エリアでぐるぐると探しました。そして、飯綱町に行き着いたんです」
最初の1か月は、牟礼駅前の旅館で長期滞在の契約をして、リンゴ農家や木工場の手伝いをしながら物件を探したそうです。その後、賃貸物件を見つけ、名古屋と飯綱町を行ったり来たりする二拠点生活が始まりました。
「そんな生活のなかで見つけたのが、空き家対策を担う地域おこし協力隊の募集でした。空き家関係なら、自分の技術を活かせそうだったし、中野市の友人も空き家対策がミッションだったので、課題意識もあって。それで応募して、2023年1月から着任しました」
協力隊生活で向き合ったのは、空き家をめぐるさまざまな事情でした。所有者へのアンケート送付、空き家バンク制度の案内や登録の促進、相談対応など、業務は幅広いものでした。空き家が放置される背景には、相続がまとまらない、片付けができない、お墓参りのときの滞在に使う、倉庫として使っている、壊したくてもお金がないなど、それぞれの理由がありました。

「自分なりにいろいろなケースを勉強して、空き家をなんとかしたいというご相談に対しては、『こういう事例がありますよ』『この制度が使えますよ』『今のままだと少し難しいので、司法書士さんに任せたほうがいいかもしれません』など、わかる範囲でアドバイスしました」
また、「家を処分したいけど、こんな古い家、売れるのかな?」という相談を持ちかけられることも多かったそう。そういった場合は空き家バンク物件を取り扱う不動産会社への橋渡しをして、賃貸や売買の道筋をつけたり、解体を希望する方には業者を紹介したりと、所有者が次の一歩を踏み出せるよう後押ししました。
「空き家を手放“さ”ないんじゃなくて、手放“せ”ない方が多いなと思いました。だからまず話を聞いて、所有者さんが最初の一歩を動けるようにお手伝いすることが大事だなと。まずは片付けだけでもどうですか、賃貸から考えてみませんか、っていうところから始めていきました」
その活動のなかで、岩井さんはもうひとつの課題にも気づきました。移住を検討している人たちが本当に知りたいのは、雪の量や地域の付き合いといったリアルな暮らしの情報であること。そして、そうした情報に気軽に触れられる「場所」が、この町には足りていないということでした。
「移住希望者でも、すでに移住した人でも、もちろん町の人でも。誰もが気軽に立ち寄って、情報交換したり楽しく話したりできる、そういう場所があったらいいなと思ったんです。それで『場』を作ろうと思いました」

協力隊の3年目、卒業後を見据えて岩井さんが借りたのが、本町にあったこの元商店の空き家です。古いものを活かしたいと考えた岩井さんは、「古道具など、欲しい方がいたら取りに来てください」という折込チラシを新聞に入れて、必要な人に持って帰ってもらいました。
設計は自分で描き、壁に断熱材を入れ、畳を床板に張り替え、天井を一部だけ抜いて吹き抜けに。ムレノバのリノベーションそのものが、岩井さんの考える「場づくり」の第一歩になりました。
「お店をやるよってなると、関わる人が絶対必要なんです。ひとりでやるのは大変だし、第一つまらないじゃないですか。壁塗りを一緒にやりましょう、リノベーションってどうやるのっていう感じで、移住した人や移住を考えている人たちと一緒に作業しました」

業態に酒屋を選んだ理由を尋ねると、「僕が好きだからです」と笑って答える岩井さん。そしてもうひとつの理由は、「自分がいなくても店を回せるから」ということでした。
岩井さんは自身が代表を務める株式会社siiz(シーズ)として、空き家や民泊の管理代行と利活用支援、移住の相談といった仕事も手がけており、中野市の空家等管理活用支援法人の指定も受けています。平日のうちの何日かをその業務にあて、ムレノバの営業は週3日。お酒と空き家相談、そして古物売買が、岩井さんの仕事の三本柱です。
お客さんは、移住者や昔からの住民、観光で立ち寄った人などさまざま。お酒を買いに来た方がそのまま空き家や移住の相談をしていくこともあるそうです。ときにはスペース貸しやイベントも行っていて、ムレノバは少しずつ、まちの交差点のような場所になりつつあります。

「僕はこの町が気に入っています。そして、自分が好きな場所は面白くなった方がいいじゃないですか。だから移住先を探してる人にも『こんなまちもあるよ』って知ってもらえればいいなって」
岩井さんが思い描くのは、通り沿いに小さなお店が点在し、緩やかにつながっていく商店街の姿です。
「例えば、ハンバーガー屋さんとかあったらいいなと思いますね、ハンバーガーが好きなので(笑)。そんなふうにお店が増えて、町民の人も近くで買い物が楽しめるようになれば、それが一番いいですよね」

今でも本町の周辺にはいくつかのお店がありますが、目的の場所に寄ったら、そのまま帰ってしまう人がほとんどだと言います。「あっちの店にも寄ってみよう」「こっちにも店があるぞ」と、歩いているだけで楽しくなる通りになっていけば、と岩井さんは考えています。
寂しくなってしまった商店街に、再び小さなお店がひとつ、またひとつと増えていく。新たに仲間に加わったムレノバがハブとなり、本町商店街を賑やかにしていってくれると期待しています。
ムレノバ
住所:飯綱町牟礼2779
営業日:金曜・土曜日 13:00–20:00
日曜日 9:00–17:00
※イベント等で変更あり。最新の営業日はインスタグラムで確認を
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