2026年3月8日、交流施設「いいづなコネクトEAST」で、小商い講座の卒業生たちによる実践マルシェ「しごとの学校フェスタ Vol.3」が開催されました。好きなことを仕事にしようと一歩を踏み出した人たちが集まるイベントです。

当日、その2階のラウンジで、小さな写真展が開かれました。
壁に並ぶのは、飯綱町に暮らす25人の女性たちのポートレート。彼女たちは、華やかな経歴を持つ人や、よくメディアに登場する人ではありません。ていねいに野菜を育てる人、カフェを営む人、大きなタペストリーを縫い上げた人、ボランティアで誰かの笑顔を支える人……。普段は表に出ることがないけれど、でも確かにこのまちを支えている皆さんです。
「いいづな100 WOMEN」は、今後3年間で町内の女性100人のポートレートを撮影し、冊子にまとめるというプロジェクト。立ち上げたのは、町内在住カメラマンの山田由美さんです。

いいづな100 WOMEN実行委員の皆さん。右から2番目が山田さん、3番目が眞鍋さん
山田さんが本格的に写真を始めたのは約8年前。当時小学生だった息子さんのバスケットボールの試合を観に行ったときに、会場で一眼レフを構えるお父さん姿を見たことがきっかけでした。
「私もあんなふうに撮りたいと思って、一眼レフを買おうと決めました。使い方まで教えてほしかったので、量販店ではなく個人のお店で買おうと思い、長野市の写真館『アカオウ写真』さんに行って相談してみたんです。でも、レンズまで含めるとやっぱり高くて。中古が出るのを待ちながら、1年ほどお金をためてから購入しました」
個人店とつながりを持ったのは、山田さんにとって心強い支えになりました。設定や撮り方でわからないことがあれば気軽に聞きに行けて、そのたびにプロのアドバイスをもらえたからです。こうして山田さんは、毎週末のように体育館に通いながら、写真の経験を少しずつ積んでいきました。

山田さんがプライベートで撮影したバスケットボール写真でフォトブック「軌跡」を作成
趣味として写真を楽しんでいた山田さんに転機が訪れたのは、2023年秋のこと。「小商い講座」のチラシを目にしたのがきっかけです。ずっとフルタイムで働いていましたが、「好きなことを仕事に」というフレーズに惹かれ、受講を決めました。
「カメラが仕事になったらいいなという気持ちがあったんです。小商い講座では、なぜ自分がそれをやりたいのか、そのやりたいという気持ちがどこから来るのかを、とことん掘り下げました。そうして自分自身と向き合ううちに、自分の軸みたいなものが見えてきたんです。それは『みんなの笑顔が好きで、私の写真でみんなを幸せにしたい』ということ」
講座の終わりに「3年後、カメラマンになっている」と目標を書いたという山田さん。しかし、仕事と子どもの部活の撮影などで忙しく、なかなか次の一歩を踏み出せずにいました。

それから1年、再び転機が訪れます。飯綱町の「まちづくり活動支援事業」の重点テーマが「女性」に決まったことを受けて、講座のスタッフから「町の女性を撮ることで、まちづくりに関われないかな?」と提案があったのです。
「飯綱町は『日本一女性が住みたくなる町』を掲げていますが、実際に自分が住んでいても、女性にとってどんな魅力があるんだろう?と思ったこともありました。でも、素敵な人はたくさんいるし、カメラでまちづくりに関われるならやってみたい。それで動き出したのですが、正直、不安の方が大きかったです」
プロジェクトに手を挙げたものの、すべてが初めての経験です。どう動けばいいのかわからないまま、気づけば採択から5か月が経っていました。焦った山田さんは、町内のまちづくり会社である株式会社カンマッセいいづなの眞鍋知子さんに「お願いします、どうしたらいいかわからないので教えてください!」と相談しました。

編集・ライター経験のある眞鍋さんが加わったことで、プロジェクトは一気に動き始めました。
まず取りかかったのは、スタッフメンバーで会議をしてコンセプト固め。知り合いの中から、これぞという方々をリストアップし、片っ端から取材を申し込みます。お願いしたのは取材を受けたことがない人がほとんどで、最初は半分以上の方から「私なんていいよ」と断られたそう。
「普通のメディアに取材されるのは、実績のある人や活躍している人が多いですよね。でもそうじゃなくて、普通の人たちがまちを支えているんです。だから『このまちで暮らしている女性たちの、その人らしい姿を撮りたいんです』と言って、何度もお願いしました」(眞鍋さん)
取材では、それぞれの仕事や活動の場面に加え「自分らしい時間はどんなときですか?」と尋ね、その場所でも撮影させてもらいました。フルタイムで働く山田さんにとって、一人ひとりの暮らしの場に足を運ぶのは大変でしたが、「その人のいつもの場所で、その人らしさを撮った方が、まちの魅力を伝えられる」と信じて撮影を続けました。

「ポートレートを撮らせていただくという経験が初めてで、前日は緊張して眠れないこともありました。初対面の人から自然な表情を引き出すことが難しくて、だけどお話をしてくれているときの皆さんの生き生きとした表情がとても素敵で……。私の目がカメラだったらいいのにと何度も思いました(笑)」
ここでも協力してくれた、アカオウ写真さんの指導もあり、山田さんは、被写体の表情を引き出すディレクションが少しずつできるようになっていきました。

突然の取材のお願いに、最初は戸惑い、断ったという女性の皆さん。けれど写真展当日に開かれたトークセッションでは、そんな皆さんから思いがけない言葉が次々と飛び出しました。被写体となった皆さんの声を、一部紹介します。
「普通に暮らしている私たちを『こういう人もいるんだよ』と知ってもらえることが嬉しいし、これから続く人たちへのメッセージになると思います」
「私は移住してきたのですが、こうして皆さんのことを知ることができてワクワクしています。横のつながりができて、みんなでまちを盛り上げて行けたら嬉しいです」
「無理、無理!っていいながら撮影してもらいました(笑)。でも、飯綱町にこういう方々がいらっしゃるんだということを知ることができたし、皆さんとお話できて嬉しいです」
「この歳で写真なんてと思ったんですが、今こうして出来上がった写真をみてみると、勇気を出して良かったなと思います」
「若い頃はいろいろと仲間に入れていただいて、いろんな活動をしましたが、今はもうなかなか動けなくなってしまって。でも、こうして皆さんにお会いできて嬉しいです」
「女性が住みたくなるまちを目指すという飯綱町の方向性はこれからも続けてほしいし、私たちもそれに向けて一緒にやっていけたらと思います。すごく背中を押してもらえた気分です。ありがとうございました」
山田さんは次の撮影に向けて、こう話してくれました。
「25人を撮り終えるころには、最初より緊張しないで撮れるようになりました。来年は、撮ることに集中しながらも、もっとその人と話す時間も大切にしたい。その人らしさを引き出すような写真を撮れるようになりたいです」

「いいづな100 WOMEN」は、あと2年で75人の撮影を予定しており、取材させてくれる方を大募集中です。条件は、普段はあまりメディアなどに登場することがない、飯綱町在住の20歳以上の女性の方。自薦でも他薦でも大丈夫です。※
「私たちから『ぜひ撮影させてください』と連絡があるかもしれません。その場合は、1回目は断っても大丈夫ですが、2回目にお願いしたときはぜひ受けてください(笑)。みんなが楽しく生活している飯綱町の魅力を、一緒に発信していきましょう」
※応募多数の場合や、年齢・職業・活動などの内容のバランスにより、掲載できないことがあります。あらかじめご了承ください。

写真集「いいづな100 WOMEN」(税込800円)は、いいづなコネクトWEST、いいづなコネクトEAST、「パンと本の店 朝と夕」にて好評発売中です!