トップライターはっさく堂さん焼きカレーとレトロなあたたかさ 〜半世紀、人とのつながりを紡いできた「レストラン ルック」〜

焼きカレーとレトロなあたたかさ 〜半世紀、人とのつながりを紡いできた「レストラン ルック」〜

01.jpg昭和時代のルック。創業当時は三角屋根はなく、四角い建物だったそうです。


昭和の空気が今も残る「レストラン ルック」

飯綱町の中心部から信濃町方面へ向かう国道18号線沿い。田園風景と遠くの山並みに囲まれたのどかな場所に、三角屋根の小さなレストランが立っています。店の名前は「ルック」。地元の人や旅の途中に立ち寄る人たちに、半世紀以上にわたって親しまれてきた老舗レストランです。

「父である先代・三ツ井敏文が、昭和48年にここをオープンしました。最初はレストランというより、『レスト』、つまり、ちょっと立ち寄って休む店だったようです。スパゲティやカレー、グラタンなどの軽食はあったかもしれませんが、今のようなメニューではなかったと思います」
そう話すのは、息子の雅仁さんです。

扉を開けると、店内には昭和の時代をそのまま残したような空間が広がっています。つくられた『レトロ風』ではなく、長い年月を積み重ねて自然と生まれた懐かしい空気が、そこにはあります。

02.jpg

店の雰囲気をつくっているのは、ホテルラウンジに置かれているような回転式のチェアや、昔ながらの照明など。チェアは毎日丁寧に磨かれていて、つややかな光を放っています。テーブルも昔のものをそのまま使っており、壊れた場合は雅仁さんが自分で修理しているそうです。

「古い家具を使い続けているのは、この絨毯を守りたいから。本当はフローリングにすれば掃除も簡単になるし、四つ足の椅子も置けます。でも、今の時代に絨毯のあるレストランって、ホテル以外ではほとんど見かけませんから、大切にしたいんです」

四つ足の椅子では、絨毯がすぐに擦り切れてしまいますが、脚が円盤状になった昔ながらのラウンジチェアなら絨毯を傷めにくく、相性がいいのだそう。家具をそのまま使い続けることが、店の雰囲気を守ることにもつながっているのです。

03.jpg

また、店内は大きなガラス窓が壁一面に広がっています。オープン当時の流行のデザインで、見晴らしの良いロケーションを生かすための設計だったそう。こちらも、メンテナンスを考えて壁にしようかと考えたこともあったようですが、このガラス窓がもたらす開放的な雰囲気と景色を守るために、今も丁寧に手入れを続けているそうです。

使い込まれた器にも、50年の歴史が感じられます。
創業当初から使われてきたノリタケのコーヒーカップは、今では「オールドノリタケ」と呼ばれるヴィンテージ品です。すでに廃盤なので、もう買い足すことはできません。それでも雅仁さんは、こうした食器を飾り棚にしまっておくことはしません。

04.jpg
こちらが創業から使われているオールドノリタケ。デザインが可愛い!

「使ってもらうことが最優先です。食器は使われてこそ意味があるもの。割れてしまったら、それがその器の寿命。そう思っています」

割れることを恐れるよりも、お客様に日々使ってもらうことを大切にする。その言葉の奥には、物に対する優しい眼差しが込められています。
長年の使用により、コーヒーカップのソーサーとカップの数が合わなくなっていますが、それもまた、この店の歴史の一部。使い込まれた食器には、お客さんたちの間で笑顔で交わされた会話や美味しい料理の思い出が積み重なっています。

 
05.jpg
ノリタケのプリマデュラというライン。ルックでは今も現役です。


「人とのつながり」を大切にする店づくり

ルックが大切にしているのは、空間の雰囲気だけではありません。人と人とのつながりこそが、この店の最大の魅力かもしれません。ネット予約やキャッシュレスも、ルックでは導入していません。それは、人とのやりとりを大事にしたいという考えからです。

「なんでもそうですが、現金を手渡すという行為には、商品の価値を感じる瞬間があると思うんです。その商品が高いと思うか、安いと思うか。そういったやり取りは、きっと記憶に残るはずです。それに、キャッシュレス時代に、お金のありがたみを忘れずにいてほしいという思いもあります」


06.jpg
このミニ看板は玄関に置かれた大きな看板を模してお客さんが手作りし、プレゼントしてくれたものだそう。

店の温かな雰囲気は、スタッフやお客さんにも支えられています。
「スタッフは本当によくやってくれていますし、忙しい時間帯には、お客様同士で席を譲り合ってくださることもあるんです」
まるで地域の公民館のような、穏やかで気持ちのいい光景。そんな空気感こそ、ルックらしさなのかもしれません。

ルックが守り続けている「雰囲気」と「人とのつながり」は、先代から引き継がれた大切なもの。雅仁さんは、その思いを変わらず大切にしています。

「私はただ、父が作ったこの場所を継いでいるだけです。本当に、それだけなんです」


人気メニュー「焼きカレー」のおいしさの秘密

ルックの名物といえば「焼きカレー」。5種類のチーズを塊で仕入れ、店内で丁寧に削って使っています。それぞれのチーズが持つ伸びや焼き加減、コクの違いが絶妙に合わさり、ここでしか味わえない一皿に仕上がっています。
 
07.jpg
名物焼きカレー。サラダと自家製リンゴジュースはプラス料金で追加できます。


また、通常のビーフカレーもありますが、焼きカレー用のルウはまったく別に仕込んでいるとのこと。焦げつきを防ぐために具材は細かく刻み、焼き上がりを考えてやや辛めの味付けにしているそうです。

この焼きカレーに欠かせないのが、家の田んぼで育てたお米です。春の田植えから秋の収穫まで自分たちで行い、昔ながらの「ハゼ掛け」で天日干ししたお米を使っています。「もち入り焼きカレー」の餅も、もち米から自家栽培。驚くほどよく伸びる、素朴で力強い味わいが自慢です。

さらに、家で育てたりんごを使った自家製りんごジュースも人気です。収穫したりんごを手洗いし、搾って、煮沸する工程まで、すべてスタッフ総出で手作業で行います。さらに、複数の品種をブレンドすることで、奥行きのある味わいに仕上げているそうです。

08.jpg
お得なランチセットも全て手作り。上は一番人気のNo.1、下は生姜焼きがメインのNo.4。こちらに、コーヒーか自家製リンゴジュースが付きます。

ルックでは、焼きカレー以外にも、豊富なメニューを提供しています。そして通ってみると、どの料理も、手間をかけて丁寧に作られているのが感じられます。
こうした日々の積み重ねを大切にしながら、ルックは半世紀以上、お客さんを迎えてきました。
時代がどれだけ変わっても、変わらないものがある。
「レストラン ルック」は、そんな大切なことを、変わらぬ風景の中で静かに伝え続けているのかもしれません。

---------------------------------------------
レストラン ルック
長野県上水内郡飯綱町古町428−1
026-253-3102
営業時間:11〜19時30分LO
定休日:金曜

カテゴリー

地図