右から、仕掛け人の徳谷さん、スタッフの小池由果さん、「健康の秘訣はコーヒー」と話す近所の常連さん(90歳!)
2024年10月、飯綱町役場前の本町通り商店街の一角に、レトロな雰囲気を活かしたコーヒースタンドがオープンしました。店名は「パカーンコーヒー」。仕掛け人は大阪府出身で信濃町在住の編集者、徳谷柿次郎さんです。
「これまで長野市の古民家『シンカイ』でお店をやっていたのですが、建物の老朽化などの理由で閉めることになりました。そこで問題になったのが、それまでシンカイに置いてあった荷物です。僕は編集の仕事のほか、イベントにも関わっていたので、とにかく荷物が多かったんです。それで、倉庫を探していました」
そんな折、シンカイに遊びに来てくれた飯綱町出身の建築士・小松剛之さんと知り合った徳谷さん。倉庫物件について相談したところ「飯綱町なら良い物件があるかも」とのことでした。そして紹介されたのが、昭和中期に建てられ、20年ほど前に閉店した「リビングセンター ヤマモト」の建物でした。
2024年秋のオープニングセレモニーの様子
最初は倉庫として利用するつもりで内覧した徳谷さん。しかし、実際に旧店舗に足を運ぶと、「神からの啓示があった(笑)」かのように、別の可能性がひらめいたそうです。
「僕は3年ほど前まで長野市に住んでいて、その後信濃町へ移住しました。この国道18号沿いの生活圏がとても好きなんです。長野市から信濃町へ向かうと、どんどん景色が変わり、雪も深くなっていく。そんな中で、この国道18号とその周辺を面白くしたいなと、ある日突然思ったんです」
信濃町に住み、長野市にオフィスがあるという環境で、その中間地点にある飯綱町で何かを始めたい──。そう考えた徳谷さんは、「リビングセンター ヤマモト」の建物の可能性を模索し始めました。
「実はここ、北国街道の牟礼宿があった場所なんです。江戸時代には宿やさまざまな店が軒を連ね、とても賑わったと聞きました。ここでお店を開き、余ったスペースを誰かに貸し、複合施設のような形にすれば面白いんじゃないかなと思ったんです」
レトロなたばこ屋さんの窓口からコーヒーの受け渡しができます!
コーヒースタンドというスタイルを選んだのは、実は店舗の隅にあったレトロなたばこの販売スペースがきっかけでした。
「ここ、そのままコーヒースタンドに適していると思ったんですよ。レトロな外観も魅力的だし、受け渡しもしやすい。それで、誰かやってくれる人がいないか探したのですが、やはりリスクもあるので見つかりませんでした。それなら、自分でやっちゃおうと」
スタンド形式ながら、イートインできるカフェスペースも設けています。コーヒーの販売だけなら、保健所で「喫茶店営業」の許可を取得すれば可能ですが、この資格では店内調理ができないなどの制約があります。そこで、徳谷さんは、今後さまざまな人が関わることを想定し、シェアキッチンやランチ営業も可能な「飲食店営業」の許可を申請しました。
「キッチンがあることで、地域の女性が関わりやすくなると思うんです。地域の女性のパワーは本当にすごいので、彼女たちが活躍できる場を作っていきたい。郷土料理や、おばあちゃんから受け継がれる伝統食をここで作れるようになったりしたら、素敵ですよね」
コーヒーはオーダーが入ってから1杯ずつ丁寧にドリップしてくれます
コーヒーは京都のスペシャリティコーヒー専門店から取り寄せたオリジナルブレンド。京都で、内装のコンセプトが気に入ったカフェを訪れた際、店主と話をするうちに「面白い人がいるよ」と紹介され、それがきっかけで仕入れ先が決まりました。コーヒーは、雪国で好まれることが多い中深煎りにしてもらったそうです。
店名の「パカーン」は、一度聞いたら忘れられないインパクトある響きですが、どのような意味が込められているのでしょうか。
「パカーンというのは、薪が割れるときの音なんです。それは、体を使って何かをするということにもつながっているんですよね。東京や長野市のような便利な都市では、体を動かして何かをする機会が減ってきています。そんな中で、体を動かす実感を得ることは、これからの時代にもっと大切になってくると思うんです」
ほかにも、朝イチでここを訪れる人が仕事前にコーヒーを飲んで気持ちを切り替えるという意味も込められているそうです。「今日は大事な会議があるから、パカーンモーニングショットを決めよう」といった言葉が、牟礼宿界隈で広がる日が来るかもしれません。
「実はこの店、この建物の大家さんである山本さんや、ご近所の90歳のおじいちゃんなど、地域の常連さんがとても多いんです。かつて宿場町だった影響もあるのか、外の人を迎え入れる感覚や、街を賑やかにするために店を応援する気持ちを持った方が多いんです。くっつき過ぎず、ドライでもない、ちょうど良い距離感で応援してくれる人が多いと感じています」
オープンの日にコーヒーを楽しむ峯村町長
パカーンコーヒーが継続することによって、地方でスモールビジネスを始めたい人たちの拠り所にもなりそうです。
「最初は大変だとは思いますが、それも人生経験です。『なんとかなる』と自信を持って言い切り、面白さをみんなで共有する。そして、孤独にならなければ、あらゆるチャレンジは糧になると僕は思っています。パカーンコーヒーは、そういう人たちの安心感となり、後押しできる存在でありたいですね」
パカーンコーヒー
長野県上水内郡飯綱町牟礼2730
営業時間:8:00〜16:00
定休日:月〜水曜