飯綱町には現在(2024年6月時点)、13人の地域おこし協力隊がいます。それぞれにミッションがあり、活動内容はさまざまです。また、地域おこし協力隊の雇用形態は自治体ごとに異なりますが、飯綱町は「委託型」を採用し、町が隊員(個人事業主)にミッションを業務委託しています。そのため、飯綱町の隊員は、ミッションとは直接的な関係はないけれど、「地域おこし」になるような活動に個人事業として取り組んでいたり、副業をしていたりと、その働き方も多種多様です。今回は、3人の隊員に地域おこし協力隊のリアルなあれこれをざっくばらんに話してもらいました。
【プロフィール】
石川 真結(いしかわ まゆ)(2023年1月~)
埼玉県富士見市出身。35歳。埼玉県ふじみ野市→飯綱町。オーストラリア人の夫とともに移住。協力隊着任前は、東京都有楽町のオフィスビルでインフォメーション兼VIPコンシェルジュとして働いていた。ミッションは、観光まちづくりの推進。飯綱町のゆるキャラ「みつどん」に目をつけ、みつどんを通した町のPRや観光情報の発信を積極的に行ったり、語学力と国際結婚の経験を生かして、外国人観光客に向けた、日本語と英語を併記したInstagramでの情報発信を行ったりしている。
岩井 敦史(いわい あつし)(2023年1月~)
愛知県名古屋市出身。35歳。愛知県名古屋市→飯綱町。妻とともに移住。現在は、飯綱町生まれの4か月になる子どもと3人暮らし。協力隊着任前は、フリーランスで木工業や運送業の運営などをしていた。ミッションは、空き家バンクの運営と空き家活用の推進、移住定住に関する業務。
鏑木 雅(かぶらき まさし)(2024年4月~)
千葉県野田市出身。46歳。千葉県野田市→飯綱町。協力隊着任前は、物流会社で派遣社員として働いていた。飯綱町が企画・主催している「信州いいづなりんご学校」の元受講生。ミッションは、農産物の栽培支援および遊休荒廃地対策。飯綱町ふるさと振興公社の果樹栽培部門に所属し、リンゴの栽培支援に取り組んでいる。
聞き手・三原 彩音(みはら あやね)(2023年1月~)
栃木県宇都宮市出身。34歳。神奈川県大和市→飯綱町。協力隊着任前は神奈川県で展開している地域情報紙の記者兼広告営業として働いていた。夫と3歳の子どもとともに移住。ミッションは、町が進める「集落創生事業」の推進と集落の活性化。
皆さんは、どうやって協力隊についての情報を集めましたか?
ネットで協力隊の制度を調べたのと、あとはいろんな地域に出入りしてたので、現役の協力隊の人たちに会って、どういう感じなの?どういう制度なの?って聞いたかな。「それなら大丈夫そうじゃん」って思ったのを覚えてる。
自分はりんご学校で飯綱町に通ってたから町のことは知ってはいたんですけど、当初は移住に関してはそんなに積極的に考えてなかったんです。たまたま銀座NAGANOでやってた移住相談会に参加したときに話が盛り上がって、町主催の1泊2日の移住体験ツアーに参加したんです。で、参加してみたらおもしろくなって移住もいいかなって思うようになって。役場をはじめいろんな方に相談するなかで、「協力隊はどうか」という話になり、以前にも、農業志望で協力隊になった人がいたと聞いたので、前例があるんだったら安心だろうと。それと、待遇の面でも、よさそうかなと思ってエントリーしましたね。
飯綱町以外の協力隊の募集も見ましたか?
見たよ。興味があったミッションがたまたま実家の埼玉県内の秩父だったの。場所は忘れちゃったけど、ほかにもいろいろ調べたよ。でも確か条件が合わなかったんだよね。
僕は長野県の北側にエリアを絞ってたんだよね。どこの自治体がどんなミッションを募集してるのかを見てた。
僕は飯綱でリンゴを育てたいというのが前提で、協力隊になりたかったわけじゃなくて、飯綱に来る手段として使わせてもらったという感じがあるかな。
僕もどっちかっていうとそっちですね。空き家絡みのことがしたかったから。
なんで北信に絞ってたの?
涼しいから。あと山が好きだから。
そしたら東北とかは?
自分の実家が愛知で、奥さんの実家が福井で、北信がちょうど真ん中だったから。
南信じゃダメだった?
南信は割と暑いんですよ。標高が高いところならいいんですけど。あとは生活の中に雪が欲しかった。北信は東京へのアクセスが良いのと、東北の方も行きやすい立地なのもよかった。決め手は、空き家っていうミッションが自分の希望と合ってたことと、飯綱町の人と接してみて、良さそうなところだなと思ったというか、人で選んで来たかな。協力隊で、あまりうまくいってない人たちに共通してるのは、協力者がいないことなのかなと思ってます。どんなにユニークで良いことをやってても、それに賛同してくれる人とか協力してくれる人がいないと、何もできないですよね。そういう意味で、飯綱町で知り合った人たちは何かやろうと思ったら、協力してくれる人が多いなと思います。
私は候補地を最後まで秩父と飯綱で悩んだんだ。旦那さんと一緒に旅行しながら町内をめぐって「飯綱町どうですか?」って聞き込みしたんだよ。ちょうどそのとき、リンゴが木に成っている9月だったんだよね。めっちゃいい景色だなと思って。すごい気持ち良かったんだ。それで帰りに秩父にも寄ったんだけど、募集してる秩父の拠点が割と都会だったんだよね。飯綱を見たあとだったから全然田舎じゃないし、なんなら渋滞に巻き込まれたし、田舎に移住したいのに埼玉から出てないし(笑)。2人で話し合って、秩父は選択肢からなくしたんだ。行く順番が違ったらどうなっていたかわかんないけどね。
実際に現地に行ってみたらわかるよね。
絶対1回は行った方がいいよね。
募集要項にそれを入れても良いくらいだよね。現地を見てない人は来なくていいですって。
そうだよね。うちらはコロナのときでオンライン面接もOKだったけど、「面接の前にもう1回必ず来ること」っていう項目があってもいいと思うんだよね。
田舎具合は見ておいた方がいいよね。
「田舎」と言っても度合いが違うからね。希望の田舎度もみんな違うし。
その点、鏑木さんは飯綱町に通っていたから、ガッツリ知り尽くしていて決めたって感じですか?
りんご学校で来ていたけれど、意外と町内も限られたところしか見てなかったんですよね。圃場と宿の行き来だけになっちゃうことがほとんどでしたから。移住体験ツアーに参加して、東高原のハーブ農園の女性の方とか、いろいろな素敵な人に会わせてもらったのが、移住の決め手としては大きかったですね。飯綱町には農業だけじゃなくて、移住して起業されてる方もいらっしゃるし、いろんな人の暮らしを見せてもらったので、それなら自分にもできるかなって思えたんですよね。ちなみに僕は、長野はどこも涼しいと思ってた。
私も。暑くても埼玉よりはいいだろう…と思っちゃう。
かと言って、飯綱町より北に行ったら雪の量がすごいじゃん。うちは飯綱町の降雪量を調べて、自分たち的に許せる北限は飯綱だってわかったよ。
そういえば、私たち3人(石川・岩井・三原)が採用されたときって、空き家対策と集落創生事業どちらもやる人を2人っていう募集内容だったよね。しかも空き家対策がメインだった。
そう。でも僕、その2つの事業の担当は分けたほうが良いんじゃないですか?って面接で提案してみた気がする。
そうだったんだ。私は、履歴書とか面接のときに、自分は経歴的に地域の人と世間話をしながらヒアリングをして地域活動をサポートするのが得意だから、集落創生事業寄りの話をしたんだよね。それもあって、空き家対策は岩井さん、集落創生事業は私になったのかもね。自分に何ができて、何がしたいかはっきり伝えたほうが良いのかもね。
私もまさにそうで、面接で国際結婚してるっていうのと、海外に行ったことある、ワーホリに行ったことがあるとか経歴を話したら、募集内容にはないけど「観光・インバウンド対策でどうですか?」って町から話が来て採用されたんだよね。
山城(竜星)さん(※)とかもそうだよね。イチゴの栽培支援と同時に飯綱町の農産物の栽培・販売支援、経験のあった養蜂もやらせて欲しいとお願いしてミッションに加えてもらったって。(※集合写真、後列左から2人目。ミッションは、四季成りイチゴの栽培管理支援、農産物の栽培・販売支援、養蜂など)
面接とかの段階でちゃんと自分ができることとかやりたいこと、ビジョンを言うっていうのは大事だね。
通るかどうかはわからないけどね(笑)。
協力隊になってよかったことは何ですか?
こっちに来てから「地域おこし協力隊をリンゴ農家になるために使うのはちょっとずれてるんじゃないか」ってはっきりそう言われたこともあるんですよ。自分のためを思っての言葉だったので別にネガティブに受け止めてないんですけど、確かに自分も正攻法ではないのかなとは思っています。リンゴ農家の後継者が減っている今、リンゴ農家になれば地域のためになるはなるけど、直接的じゃないから理解されにくいかなと感じてます。リンゴ農家として独立したいんだったら、農家さんのところで里親制度を使ったりして修業させてもらうっていうのが、正攻法じゃないの?って言われます。だけど、自分は協力隊で入ったのは正解だったと思ってます。待遇面が保証されていることも含めて、移住の取っ掛かりとして安心感がありますよね。ふるさと振興公社に所属して働いているんですけど、公社だと農家出張というのがあっていろんな農家さんのところに行けるので、いろんな人と交わる機会があるのですごく勉強になるんです。それこそ協力隊ならではなのかなって思います。おかげさまですごく楽しくやらせていただいてます。
協力隊になることで、田舎に移住できた、飯綱町に住むきっかけになったっていうのはあるよね。あと、私はマンション住まいで育ってきたから、地域の人とこんなに関わるって無縁だったのね。小さいときにマンションのお祭りとかはあったけど、最近実家に帰ったら、もうマンションのお祭りもなくなりつつあるみたいだったし。自治会に入る、入らないも自由だしね。ゴミ当番なんて、こっちに来て人生初めてやった! こちらでの体験は、ほぼ全部、初めてのことだらけだったね。
ネガティブには捉えなかった?
もちろん、ネガティブになったこともあったよ(笑)。しかも旦那さんは日本の田舎の文化は知らないからさ。だから1年目は正直つらかったね。1人でパンクしてた。でも自然に囲まれて、直売所とか道の駅が夫婦そろって大好きだから、そういうところにふらっと行けるっていうのは、田舎のよさだなって。埼玉にいたらできなかったことだよね。
そういうところで何とかバランス取って1年やったって感じだね。
この野菜・フルーツが並びはじめたから、その季節になったねぇみたいなのもあんまり埼玉で買い物してるときは意識してなかったな。こっちだと、みんなが持ち寄るものでもわかるから、本当に季節を感じられるようになったよ。あと私、車の運転が大っ嫌いなんだけどさ、今日はどんな動物が道路に出てくるのかなって思いながら走ってると飽きないんだよね。みんな嫌がってるけど(笑)。タヌキとかキツネとかリスにすれ違うとキャッ♡ってなるし、それは楽しいかな。
僕は、飯綱町のことが好きで、協力隊の人や同じような考えを持った人たちと知り合えたのは良かったなと思いますね。別に飯綱町に限った話ではなくて、自分の町のことをちょっとでも良くしたいんだっていうような思いの人がいるって、いいなと。コミュニティがあるのがいいのかな。
じゃあ反対に、協力隊で大変だったこととか、難しいなってことはありますか?
大変なことを話すには3時間は欲しいね(笑)。
私のミッションは一般の住民の方たちの中に入って話をして一緒にやらなきゃいけないから、緊張感はあるよね。下手なことしたら、すぐ広まるだろうし。普通の民間の仕事だったら、ここがあなたの担当です。あなたの仕事場ですって言われて、何かやらかしちゃったとしても異動します、配置換えします、で済むかもしれないんだけど、協力隊の仕事は自分の生活もかかってるし、今後にも影響するしね。同時に、いわゆるお給料が税金である以上、ある程度の緊張感を持って仕事して、それなりの結果もださないと、と思うしね。
私はこの人のことを知らないし、あいさつしたこともないけど、相手は知ってるっていうのは多いよね。
良かったことと表裏一体なんだけど、どうやってもコミュニティは小さいから、都市部みたいに、隣のやつなんて知らねぇとかはできない。コミュニティが小さい分、良い面もあれば、気を遣うみたいなことは必要になる。それが大変だと思うか、受け入れるか、表裏みたいなところはあるよね。そういうのも込みで、田舎なのかな。野菜はもらえるけど、何かのときにはお返しするし、そういうコミュニティを面倒くさいと思う人は向いていないのかな…って感じだね。
任期を満了したあとの今後については、それぞれどう考えていますか?
リンゴだけで生計を立てるのは難しいっていろんな人から言われるので、もう1つ栽培しないといけないのかな、モモなのかブドウなのかわからないけど。これからそうしたことをいろんな人と話をして決めていかなきゃと思ってますね。
僕は、空き家活用とか、空き家に関わるような物事全般を請け負う会社をつくってやっていきます。
夫婦で始めたコーヒー豆の販売の仕事(ピーターズコーヒー)を、ネット販売とかイベント出店で本格的にやろうと思って、その準備をしています。飯綱町は、イベント出店とか、自分の商いを試せる場所があるっていうのが良いよね。あとは民泊をやろうと思っています。せっかくピーターが妙高で民泊の仕事をしてノウハウが勉強できてるから、自分たちでもやりたいよね。あとは、ここで培ったインスタのスキルを使って何かしらできたらいいかなって。
私は、夫婦でリンゴ農家をやる予定です。夫も今、鏑木さんのように研修中です。あとは、前職のスキルを生かして、町内の事業者さんの広報・宣伝のお手伝いをするような仕事ができればと考えています。
赤裸々な隊員たちの声はいかがでしたか? 皆さんから気候の話も出ていましたが、移住のポイントは、意外と夏の暑さからの逃避もあるのかもしれません。飯綱町の協力隊員たちは、悩みながらも自分たちのミッションに取り組み、地域とのかかわりを大切にしています。地域おこし協力隊のミッション・町のニーズと、自分のやりたいこと・できることがマッチしたら、移住の足掛かりとして協力隊になるという選択肢もぜひ検討してみてください。3年間の任期のあいだに地域とかかわり、さまざまな人とつながることができるので、定住の土台をつくるにはおすすめです!
飯綱町では、地域おこし協力隊を募集しています。詳細は、リンクをご覧ください。