トップライターKAORUさん今日も緑マンはみんなにエールを送っている

今日も緑マンはみんなにエールを送っている

飯綱町倉井地区、普光寺区との境あたり。「北部高校入口」バス停から、北部高校へ向かう坂の中腹に、雨の日も風の日も雪の日も“それ”は立っています。

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「あれは何?」「何かいる!」と気になっていた人も多いはず。
近寄ってみましょう。

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通学路として通る中高生を見守るように立っているのは、体中に青々と葉を茂らせ、麦わら帽子をかぶってサングラスに黒マスクのこの方。勝手ながら便宜上「緑マン」と呼ばせていただきます。帽子は、かんざし? とシロツメクサの花輪で飾られていました。緑マンは誰がどのように作ったのか、付近に住む知り合いに聞くと「作者のおじちゃん知っているよ」と言うではありませんか。情報では、年齢を感じさせない元気な男性とのこと。ここかな? と訪ねた一軒目は、渋沢憲一さん(67)。かつては電車や新幹線の運転士をしていたという憲一さん。少し前まで倉井区の区長さんも務めていました。

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緑マンについてうかがうと、「あれはね、親戚の“のぼちゃん”が作ったんだよ。(緑マンは)道路沿いに立っているから、交通安全に一役買うんじゃないかということで、区長のときに教育委員会に交通安全の旗をもらいにいって、(緑マンに)持たせたんだよ。旗はもうどこかにいってしまったけれど、今は反射タスキをかけているよ」と憲一さん。憲一さん宅の素敵なお庭も、緑マンの作者が剪定しているそう。

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憲一さんのお宅から見上げる緑マン。後ろ姿もキュート

証言をもとに、いざ、“のぼちゃん”(83)のお宅へ直撃。突然訪ねたにも関わらず笑顔で迎えてくださったのぼちゃんは、バイタリティ溢れるスーパーカッコいいオジサンでした。

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見つけた! このカッコいいオジサンが、緑マンの作者のぼちゃんです
 
低木を刈り込んで作成される造形物をトピアリーというそうなのですが、緑マンは“マサキ”という木でできたトピアリー。
「あれ(緑マン)はね、4年ほど前に、ガードレールのところに生えていたマサキを、通りがかりの女子高生に相談しながら整えて作ったんだよ」
当時は頭のてっぺんがまだガードレールと同じ高さだったそうです。のぼちゃんの麦わら帽子をかぶせると、ぎっしり葉が生い茂って、どんな風でも飛んでいかないのだとか。
「コロナの頃、高校生が黒いマスクを着けていったんだ。そのあと俺が眼鏡をかけて今の姿になったんだよ」
長年、材木店で働いてきたのぼちゃんは、「定年して木を切る仕事を辞めたら、木を育てることをしよう」と思い、木の手入れをするようになったと言います。材木商時代はいくつもの副業を持っていたそうで、一時期は北部高校の校用技師も務めました。「高校生の応援ができるように、見て闘志が湧くようなものにしたかった」と、作成当初は『勉強は宝』と書いた札を緑マンに掛けていたそうです。
「校用技師として北部高校にいた頃は、悪さをする生徒にはこっぴどく怒ったものだよ」と語るのぼちゃん。本気で向き合う姿に、心を開く生徒も出てきました。「校庭の松を手入れしているときにね、下校する一人の男子が『おいちゃんおやすみ』って俺に声を掛けて、何度もふり返っては手を振ってくれた光景は今でも鮮明に覚えているよ」。卒業式には15名ほどの学生が、のぼちゃんのところに別れのあいさつに来てくれたそうです。そういった日々の"感動”をのぼちゃんは大切に書き留めています。

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3年日記に毎日の日記を黒字で書いたあと、"感動したこと#を赤字で書き込むのが日課。びっしりと文字の書き込まれた何冊もの日記は圧巻です

のぼちゃんの父も、定年後は造園の仕事をしていたそうです。のぼちゃんが42歳のときに、父から定年を迎えたら何やるつもりだ?と聞かれ、まだ考えていないと答えると「世の中にはやっておくべきことがある。口は開かなくていいから、ひな形をしっかり作れ」と言われたのだとか。そこでのぼちゃんは樹木についての研究を始めます。インターネットで検索すればテンプレートが簡単に出てくる現在とは違い、当時は手探りで、自分で作り上げる必要がありました。本業が休みの日曜日には、自分の家の庭、憲一さんの庭、親戚の庭を手入れしながら、できたこと、わからないこと、試した結果などを大学ノートが真っ黒になるほどに記録をつけ、独学で研究したそうです。父は絶対に教えてくれることはなかったそうです。そうした苦労を積み上げて、今の技を身に付けたと話します。

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のぼちゃんのお庭の、龍のようにうねる古木は樹齢100年ほど。昨年、試験的に木の半分の皮を剥いてみたところ「皮を残した部分は生きていて、ちゃんと葉も茂っているんだよ」

「お盆のちょっと前、晴れ渡った日の夕方に水を撒くと、太陽の反射で芝がピカピカに光って、これは最高にきれいなんだよ。そんな日はキンキンに冷えたビールをデカいジョッキになみなみ入れて一気に流し込むんだ」
痛いところはどこもない、と壮健なのぼちゃん。日々の感動を見逃さず、エネルギーに変えて取り込むことが、のぼちゃんの若さの秘訣かもしれません。

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ところで、緑マンの本当の名前は何なのでしょうか。作者ののぼちゃんは、「名前はないんだよ、みんなに任せるよ」と言いますが、たしかに、見る人によってさまざまに呼んでいるようです。

「くさびと」「変人」「サビエル」「植木丸」 (中学生男子)
「もじゃもじゃ」「つたお」「みっきー」 (中学生女子)
「保護者」 (高校生Y君)「見守られている感じがするので」
「グリーンマン」(60代男性Kさん)
「メガネのおじちゃん」(憲一さんのお孫さん)
 「のぼちゃんが作ったからノボちゃんでどう?」(憲一さんの奥さん)
 

十人十色の愛称で呼ばれながら、のぼちゃんの緑マンはこれからも道行くみんなを見守り、エールを送ってくれることでしょう。

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