トップライター眞鍋 知子さんこんな農家がいたっていいじゃない? 牛農家とリンゴ農家の挑戦

こんな農家がいたっていいじゃない? 牛農家とリンゴ農家の挑戦

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(左から)水島洋喜さん、水島彩花さん、坂口哲郎さん

牛肉の焼ける香ばしいにおい。赤身と脂身のバランスのいい肉はジューシーでうま味があり、お肉好きなら思わず笑顔になってしまいますよね。最近、町内外のイベント会場でちょくちょく目にする、お肉のキッチンカー、その名も『肉はともだち』。実はこのキッチンカーを運営しているのは、飯綱町のリンゴ農家と酪農家なのです。
 
飯綱町毛野出身の坂口哲郎さん(40)と赤塩在住の水島洋喜さん(38)は、地元の先輩後輩という仲。学年が違うので、お祭りなどで存在を知っている程度でしたが、共通の友人を通じて坂口さんが水島さんの除雪の仕事を手伝うようになり、交流が深まっていったそうです。
「けっこう仕事の話をするのは好きで、集まるとお互いの事業についてあれこれ話していたんです」と坂口さん。酪農業界は世界情勢の影響を受け下火に、また、リンゴ農家も温暖化や天候不順に左右され先行きが不安というなか、キッチンカーを始めた知り合いの話を聞く機会があり、これだ!と思い至ったのだと言います。

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「リンゴでシャーベットをつくろうかとか、減ってしまった牛を増やして再始動しようかなども考えましたが、それをやって儲かるという保証もないし」と坂口さん。
「どうせ新しいことをやるなら、楽しんでやろうじゃないか!というのが僕らのモットーなんで」と豪快に笑うのは水島さんです。水島さんは昨年、火事により牛舎と自宅が焼け、事業再建を模索して奮闘しています。父がやってきた酪農を継いで18歳から業界で働き、今年でちょうど20年。酪農は生き物を扱う特性上、仕事は365日休みなし、労働時間も長く取られるため、これまで旅行ができませんでした。「キッチンカーだったら全国を旅しながら回れるよな、というのもキッチンカーをやろうと思った理由」と話します。水島牧場は乳牛を飼育していますが、酪農関係の流通で、いい肉を安く仕入れられることを生かし、これを商品にすることに。そして坂口さんは、調理師の母に依頼し、牛肉に合うリンゴを使ったたれを開発してもらいました。こうして、酪農家とリンゴ農家による、牛とリンゴを生かしたキッチンカーが誕生することになったのです。
「いざ、やろうということになったけれど、自分たちは飲食業界のことはまったく知らない。誰かに相談したいと思って見まわしたら、泉が丘喫茶室に同級生の植田麻緒さん(40)がいたんです」(坂口さん)
「キッチンカーをやりたいんだけど、どうしたらいいか?」と相談を持ち掛けたところ、植田さんは快くアドバイスしてくれたと言います。さらに、泉が丘喫茶室やいいづなコネクトEASTを管理運営する株式会社カンマッセいいづなのスタッフも協力してくれ、ちょうど出店者を募集していたフェス「GOOD CONNECTION IIZUNA」に参加できることが決定、「もう勢いだけっす!(笑)」というノリで、初めてのキッチンカーを出店することになったのです。

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出店するにあたり、自分たちのキッチンカーの名前が必要ということになり、決まったのが『肉はともだち』。あまりのユニークさに由来を聞くと、「おもしろキャップを扱っているお店で、正面に『肉はともだち』と刺繍が入ったキャップを見つけたんです。もうこれだろ、と思って。略して『肉とも』と呼んでください!」(坂口さん)。SNSのアカウントも開設し、メニューや出店予定の紹介を発信しています。アイコンに使われている、かわいい牛とリンゴを被った柴犬のイラストは、知り合いのイラストレーターさんに頼んで描いてもらったのだとか。
 
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初めてのフェスに出店して以来、半年間で10日間ほど出店を重ね、仕入れコストや作業効率、食品ロスなど、さまざまな課題が見えてきたと坂口さん。「回数をこなして、だんだんと無駄が省かれてきましたね。メニューも、SNSや各地のイベントを見て回って研究し、絞り込んでいきました」
A4ランク以上の牛のランプ肉を焼いた牛串(1,000円)と、和牛100%の肉ともバーガー(ポテト付き・1,200円)を定番商品に据え、行く先々で高評価をもらっている『肉とも』。冬は、これにシチューや煮込みなども加えていくとのこと。牛串は、一口食べてその旨さに驚きの声を上げる人が続出。お店で提供されたら、それなりのお値段のランク肉を使っています。バーガーは、地元の三水製パンのバンズに、品評会で出る端肉をミンチにしたパティ、レタス、トマト、チーズにオリジナル和風マヨソースを挟んだこだわりの逸品。人気が出るのも納得です。

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にもかかわらず「手応えはあるんですけど、でもまだ、フードフェス(肉フェス)に出ていないんですよね」と漏らしていた水島さん。それがある日、SNSにDMが届き、今年5月に須坂市で開催される「ワイン&肉フェス in 須坂」に出店することになったのだそう。「主催者側から声をかけてもらったのは初めてだったので、アガりますね! SNSのコメントでも、『こんなおいしい肉を食べたことがない』と書いてもらったのはうれしかったです。調子こいてしまいそうです(笑)」

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成果が見えるほど、ますます気持ちも盛り上がってきて、目標は「お台場の肉フェスに出ること」だと教えてくれました。その前に、キッチンカーの売上だけで1,000万円を目指そうと、自分たちを鼓舞しています。坂口さんは、「初期投資もあってまだ赤字だけれど、自分たちのキッチンカーがつくれるように利益を出していきたい」と意気込みます。もちろん、坂口さんも水島さんも、本業であるリンゴ農家も酪農家も辞めたわけではありません。「農家の元気がない今だからこそ、こんなことをやってる奴らもいるぞ、と農業を盛り上げていきたいという思いがあります。そもそも僕らも生きていかなくちゃいけないわけで。がむしゃらに何でもやっていかなくちゃ食ってけないんですから」(坂口さん)
リンゴ栽培に手が抜けない時期は水島さんたちが、酪農が忙しいときは坂口さんがと、お互いに助け合って運営していくつもりと、協力体制はばっちりです。イベント出店で人手が足りないときは、親きょうだい総出で運営しています。
「なかなか食べられない最高格付けの信州牛を、キッチンカーで気軽に味わってみてください!」
明るいノリで突っ走る、飯綱町の農家の取り組みを、ぜひ応援してください!


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