トップライターおおば みわさん馬から学ぶ!人との関わりに役立つコミュニケーションワークショップを体験してきました

馬から学ぶ!人との関わりに役立つコミュニケーションワークショップを体験してきました

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ベストセラー本『嫌われる勇気』(岸見一郎著・ダイヤモンド社)では「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と紹介されます。確かに、幼いころから始まり、大人になっても、人との関わりには何かしらの悩みが尽きませんね……。でも、「馬」との触れ合いを通してそんな悩みを解決するヒントがもらえるかもしれません。
飯綱町に小型の馬、ポニーに学ぶコミュニケーション研修を開催しているところがあると知り、「馬とコミュニケーション」ワークショップを体験してきました!

講師は、合同会社馬と の眞鍋知子さん。2018年から飯綱町に移住され、今は自宅で「エディ」と名付けたポニーと暮らしています。

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眞鍋さんの馬との出会いは中学1年生のとき。カントリーウエスタンミュージックが好きだった父の知り合いから、地元の乗馬クラブに誘われたことがきっかけで馬に親しむようになったそうです。お父さんの音楽好きがなければ、いまここで馬と暮らす眞鍋さんはいないかもしれない……。人生って偶然の連続ですね。大学時代には馬術部に所属し、大草原で馬に乗るためにモンゴルを旅行したこともあるとか。

今はエディとの暮らしにもすっかり慣れた眞鍋さんですが、仔馬のエディを迎えたばかりのころは、信頼関係が築けず悩んでいたそうです。世話をしに小屋へ行くと「あなたなんて嫌い」と言わんばかりにお尻を向けられたり、時には脱走されたり……。エディは馬としては小柄とはいえ体重は200キロ近くもありますから、本気でぶつかられたら人間は大けがをしてしまいます。脱走されたときは本当に冷や汗をかいたそうです。
悩んでいた眞鍋さんはある日、「ホースマンシップ」という考え方に出会います。馬を威圧して従わせるのではなく、人間が馬の言葉を理解し、馬が自発的に動くように導くというトレーニング方法に、目からウロコが落ちたそう。そしてホースマンシップを学ぶうち、これは人とのコミュニケーションにも生かせるのでは?と思い、このワークショップを始めるに至りました。

それでは、ワークショップスタート! 今日は私「おおば」と、飯綱町在住の「ミツハシさん」の2名で受講します。まずは座学からです。

(以下、眞鍋さん:眞、ミツハシさん:ミ、おおば@筆者:お)
眞:「まずは、“馬”とはどんな動物でしょうか?知っていることを教えてください」
お:「えっと、足が速くて、人が乗れるとか……?」
ミ:「賢い動物……?」

あれ、意外と出てきません。漠然としたイメージはあっても、私たちは馬についてよく知らないようです。

眞:「例えば、馬は意外と鼻がきいて、人間の約1000倍も匂いを感じやすいんです」
お:「えっ……。そんなに鼻がいいなんて知らなかったです!」
眞:「なので、馬と初めて会ったら、まずは自分の匂いを嗅いでもらい、自分を認識してもらいます」

なるほど……。私は、馬は目がよさそうだから、まずは目の前に出ていけば私のことを認識してもらえると思っていました。でも、それは私の勝手なイメージだったのですね。相手を知ることで、安心してもらうための対応が変わります!

眞:「馬の視界は350度ほどあります」
お:「そんなに広いんですか!」
眞:「見えないのは自分の真後ろだけ。だから、馬は後ろに立たれると嫌がります」

馬の後ろに立つと蹴られるから危ない、と言われるのはそんな理由もあったのですね。勉強になります!ほかにも、馬の体や群れで暮らす馬の生態に関する知識などを教わりました。

眞:「では次に、一度馬の気持ちになってみましょう」

眞鍋さんが取り出したのはビニールひも。これを首の後ろにかけられて、ひもの端は眞鍋さんが握ります。すると……無言でグイッと引っ張られました!

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ミ:「うわー、嫌な感じ……!」
眞:「ごめんなさいね。嫌な感じがしますよね。ひもで首を引っ張られるなんて、初めてですもんね(笑)。では、嫌な感じを与えずに行きたい場所に一緒に行くにはどうしたらいいでしょうか?」
お:「……(どうしよう)」

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眞:「ミツハシさん、あそこへ行きましょう!」
ミ:「はい」

言葉を理解したミツハシさんは、ひもを引っ張ぱられなくても自分から前に進みます。もちろん、不快な感じはしません。力ずくでひもを引っ張られるか、言葉で伝えてもらうかで、気持ちが全く違います!

眞:「日本語が通じるからわかったけど、外国人だったらどうしますか?馬も同じで人間の言葉は通じません。どうやって一緒に歩いてもらえばいいでしょう?」
お:「うーん……。」
ミ:「行きたい方向を指さしても、馬には伝わらないですしね……。」

ここで、眞鍋さんが紹介したのは「メラビアンの法則」。人と人がコミュニケーションをとるときに、相手に影響を与える情報の割合は視覚が55%、聴覚が38%、言語情報が7%の割合である、という心理学上の法則です。

眞:「つまり、人間も言葉はあまり使わずコミュニケーションをとっているということです。だから馬とは人間の言葉は通じませんが、視覚と聴覚でコミュニケーションが取れるということですね」

なるほど!でも、人が馬と視覚と聴覚でコミュニケーションが取れるなんて、本当かなあ……?

眞:「馬は賢い動物で、相手がどんな生き物かをよく見ています。怖がっているな、とか、自分のことを見下しているな、とか。だから大切なのは、フラットな状態で、馬に対して敬意を払い、一目置く意識を持つことが大切です。すると、馬も信頼してくれるようになります」

【一目(いちもく)置・く】自分より相手が優れていることを認め、一歩を譲る。(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
尊敬する、とも少し違った、英語の【respect(リスペクト)】ありのままの相手に敬意を持つ、尊重する、のような感覚だそうです。

眞:「馬が指示に対して自発的に動くのは、相手を信頼したからです。馬だからこんなことを伝えてもわからないだろう、とか決めつけないで、相手を知って敬意を払うことがコミュニケーションのスタート地点です」

馬にまつわるさまざまな話を聞いたあとは、自分自身がコミュニケーションをとるうえで大切にしていることや、課題に思っていることをお互いに共有しました。続いては、場所を移動して、いよいよエディと対面です。

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あ!エディがいた!

生き物が大好きな私は「かわいい~」とさっそく近寄りたくなりますが、まずは自分を知ってもらわないといけないという座学の知識を思い出して我慢。眞鍋さんが、小屋にいるエディにホルターとリードロープをつけます。

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ここでびっくりしたのが、エディが明らかに眞鍋さんの指示を聞いていることです。「バック」で下がり、「ゴー」で進み、「ステイ」で動きません。観察していると、眞鍋さんは言葉だけでなく、目線や手の動きで「バック」や「ゴー」の指示を出しているようです。私は、馬はムチでたたかれて動くイメージがあったので、言葉や動作で馬が指示に従っている姿を見て衝撃を受けました!

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では、お待ちかねの引き馬体験です。まずは匂いを嗅いでもらい、あいさつをします。「エディ、こんにちは~。よろしくね」

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一通りのレクチャーをしてもらったら、眞鍋さんからリードロープをバトンタッチ! 一番手はミツハシさんです。自分の行きたいところへ、エディと一緒に歩いてゴールするというのがお題です。

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簡単そうに思うかもしれませんが、文字通り道草を食いだすエディ。
ミ:「エディ、あっちだよ!」

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背中も気になるご様子……。

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眞鍋さんのサポートもあり、だんだんとコツをつかんで無事に目的地に到着!

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二番手の私も道草を食われ、

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どつかれ、

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なんとか目的地に到着しました。
 
言葉の通じない相手(馬)を、自分が行きたいところへ誘導するのは難しかったですが、やっているうちにわかってきたこともあります。単にリードを引っ張るだけでは、こちらの意思は伝わらないということです。エディを対等な相手として尊重し、私が「あの場所に行きたい!」という明確な意思を持つこと。そして、目線、手の動き、声、全身で伝えようとすると、リードを「引っ張る」というような強さではなく、「揺らす」程度でも、エディは指示をわかってくれるのだということ。とはいえ、ある瞬間はできても、続けてもらうには、全然こちらの修業が足りませんでした。

眞鍋さんの指示だと、すんなり動いてくれるんだけどなあ……。エディに「一目置かれる」には私はまだまだ時間がかかりそうです。

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眞鍋さんと一緒に走って、心なしかうれしそうなエディです。1時間程度の体験ですが、脳みその普段使っていない部分を使った感じがしました!

初めは、馬と触れ合うワークショップなのに、なぜ最初に座学があるのだろう?と思ったのですが、これが本当に大切でした!ひもで引っ張られる不快さを体験したり、事前に馬のことを知って馬に見えている世界を想像したりすることで、イメージしていた馬との接し方が全く違うことがわかりました。相手が人間でも同じなのだということを体感できた気がします。相手の好きな物や嫌なこと、得意不得意を知ったり想像したりするだけで、自分のアプローチは変えられると思います。
私は初めての場所でも人でも緊張しない性格なので、これまで人と関わるとき、相手のことをよく考えないままに接してしまっていました。相手にとってみたら、時には無意識に不快な思いをさせていたかも、と反省。もちろん相手の全てを知ることはできませんが、想像することを心がけるだけでも、これから他人との接し方が変わりそうです。

例えば日々の生活を振り返ったとき、職場で尊敬できると思う上司は、ただ威圧的な態度をとるのではなく、部下に対しても「一目置いている人」だと思います。まだまだ職場では若手の私ですが、もしも今後、部下ができたときは、そんな姿を目指したいと思いました。一緒に参加したミツハシさんは、「自分がぶれない軸を持つことが大切だと感じました。子供に対する親の接し方にも生かせそう」と話していました。

また、眞鍋さんが引っ張っていないのに、指示に従っていたエディの姿にも非常に驚きました。私の指示が伝わった瞬間もあり非常に嬉しかったです。言葉は、意思を伝えるためのあくまで一つの要素でしかなく、表情や声、仕草など、さまざまな合図で伝えていたのだな~、としみじみ思いました。そして、今日学んだ「一目置く」という感覚も、今後のコミュニケーションで生かせそうです。
特に生き物が好きな方には、本当におススメなワークショップです! 自分のこれまでのコミュニケーションを振り返るきっかけとなる体験ができますよ!

ワークショップの詳細、お申し込みは下部リンクから!
合同会社馬と

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