トップライターKAORUさん三水有線放送が惜しまれながら3月いっぱいで解散

三水有線放送が惜しまれながら3月いっぱいで解散

朝の6時半、メロウな音楽とともに「おはようございます。朝のお知らせの時間です。」というアナウンサーの声が聞こえると、「有線が鳴ったから、朝ごはんにしましょうか」とお母さんが声を掛けて、家族が食卓に集う……。飯綱町三水地区では、そんな朝の風景があったかもしれません。

「有線」と呼ばれ、地域の人に親しまれてきた「一般社団法人三水有線放送電話協会(SUHK)」は、2024年3月いっぱいで65年の歴史に幕を下ろすことになりました。飯綱町の鳥居川以北に位置する旧三水村エリアには、文字通り有線がつながっている地域が残っていて、入会して有線維持費を支払うと、有線電話が無料で使えて、有線放送を聞くことができます。有線放送は、大字、小字単位に限定することもできるので、町全体に関わるお知らせだけでなく、「〇〇地区の集会のお知らせ」といった、非常にローカルな情報も流せます。

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旧三水村の公民館報「三水村116年の歩み」というページには「昭和33年8月三水有線放送協会設立全戸に有線電話が入る」と記されていました。昭和33年当時の電話というのは、電話交換手と呼ばれるオペレーターが、電話をかけた人とかけたい相手の電話回線を手作業で接続していた時代です。昭和35年の電話普及率は全国でも15%程度だったので、全戸に有線電話が設置されるなんて、それは便利になって喜ばれたことでしょう。

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田んぼの畔に建つ有線柱。大多数が木の柱です。

旧三水地区には、木製の有線柱が立っているのにお気づきでしょうか。「有線は、のびる郷土の道しるべ」は、有線協会の標語です。設立当時の人たちは、この有線柱が村中に設置され広がっていく様子を、郷土のつながりや発展の象徴のように感じていたのかもしれません。

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アップルミュージアムには公衆電話の手前に有線電話が置かれています。

平成初期に設備の改修が行われ、長い間、生活の必需品として大切に使われてきた有線ですが、昨年6月にメインシステムの電源が落ちるトラブルがありました。
「2日おいて再度電源を入れてみたら復活したのですが、困ったことに直接の原因は分かりません。業者に見てもらうと、老朽化で全ての機械に交換の必要があると言われてしまいました」
そう話すのは平成26年から有線の保守、事務、総務などを一手に引き受け、切り盛りしてきた松野哲さん(70)です。
 
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有線のシステムは年代物のパソコン、NECのPC9801で動いています。懐かしのフロッピーディスクなども現役で使われています。
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これが各家庭の電話配線をつなぐ交換機

設備機器の老朽化に加え、携帯電話の普及に伴い、利用者の減少にも歯止めがかからない中で、秋には有線の今後を問う利用者アンケートを実施することになりました。結果は大多数が「解散やむなし」でしたが、迷惑電話や詐欺が怖いから電話には出ないことにしているけれど、有線なら町内からしかかかってこないから安心して出られるというお年寄りもいるから、「何とか残せないか」という声も寄せられました。有線でしか聞くことのできないお知らせは、昼の放送と広告放送、議会放送などのチャンネル放送、おくやみ放送です。新聞におくやみ欄があるように、有線のおくやみ放送は重要視する人が多く、臨時総会でも意見があがったそうです。
「誰かが亡くなると、おくやみ放送が流れて訃報を伝え、地域に“出棺は何日何時です。皆でお見送りしましょう”というお知らせが流れる。葬儀に参列しない人も、ご近所皆で故人を見送る慣習はコミュニティの大切な一場面だった」
重要な役割を担っていた有線がなくなってしまうのは次代の流れとはいえ、新しいコミュニティの維持の仕方についても一度考えてみる必要がありそうですね。12月に開いた臨時総会で、三水有線放送協会の解散が可決されました。有線がなくなったら、町のお知らせはどうやって聴くの?と心配になるかもしれませんが、有線で放送される内容の8割は、飯綱町の防災行政無線放送(以下防災無線)で聴くことができます。2005年に旧牟礼村と旧三水村が合併して飯綱町になった際、町全体の防災無線放送を三水有線放送が請け負うことになったためです。
 

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現在、各戸に配布されている防災行政無線

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防災無線で流れる行政に関わるお知らせや地域のお知らせは、三水有線のスタジオで録音された音源を、町役場の放送室にセットして流しているのです。昨年まで放送されていた町内の小学生が毎朝一人ずつ「おはようございます。〇〇小学校の〇〇です…」と、抱負を話す「朝のあいさつ」は、聞く人に元気を分けてくれましたね。三水有線放送電話協会は2024年3月31日で営業を終了し、その後は有線柱等の撤去作業を進める予定です。
「道沿いの柱は順に作業していきますが、田んぼや畑の畔に建っている柱は耕作期間は撤去工事ができないので、全ての線路設備を撤去するには1年半から2年かかる見込みです」と協会長。長年地域を支えてきた“有線”と関係者の皆さま、本当にお疲れ様でした。

※防災無線設置のお問い合わせは、飯綱町役場総務課まで

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